上琴小説

□本当の気持ち
2ページ/8ページ


〈2〉

それからのことは何も覚えていなかった。
美「……」
にもかかわらず妙に安心できる時間だったような気がした。

美「(…あれ?)」
そして、気付いたら美琴はベッドの上に寝かされていた。
上「おっ、目が覚めたか」見慣れない景色と聞き慣れた声が頭の中を飛び交う。美「どこ…?ここ…」
上「あぁ、俺の家だ」
美「は?」
美琴は何も把握していないかのような間抜けた声を出す。
把握しようとしても、熱のせいで上手く思考能力が機能しない。
上「いやいや、お前が倒れたから連れて来たんだぜ。ていうかすごい熱だけど大丈夫か?」
美「あ〜…通りでダルかった訳ね…」
上「つーか、よくそんな状態で出歩いてたな…」
上条は呆れた口調で呟きながら、冷やしたタオルを額にのせる。
と、美琴は反射的に目を閉じて顔を赤くした。
すると。
美「て、ていうかアンタ!こんな部屋に女の子連れて来ていいと思ってる訳!?」美琴は急にスイッチが入ったかのように言う。
無理にでも反論しなければどこまでも甘えてしまいそうだったからかもしれない。
上「お前は感謝って言葉を知らねぇのか。第一、病人をほっといて帰れる訳ないだろ」
美「う、うるさいわね…ごほっ…ごほっ」

そして、いつも以上に強がっていた。

上「はぁ…病人とは思えねえな」
そう呟くと、上条は立ち上がって近くの棚から体温計を取り出す。
上「ほら、熱計れ」
気力も体力も残っていなかった美琴は黙って体温計を受け取った。
すると、美琴は深呼吸を1つして。
美「…ごめん」
上「ん?」
美「助けてくれたのに…いろいろ言ったりして…」
再び弱々しい声で喋る。
上「お前から謝るなんて珍しいな。かなり熱あるんじゃねえの?」
が、上条は笑いながらからかい半分で言う。
この状態なら自分が優位だと思ったのだろうか。
美「…バカ」

数分間の沈黙の後、ピピッと体温計が鳴った。

そこに表れた数字は驚くべきものだった。
上「39,1℃!?」
今まで外出していたのが信じられない。
上条は衝動的に美琴の額に手を当てた。
その度に美琴は顔を赤くするが上条は気付く気配もない。
とにかく、確かに数字が示すだけの熱さが伝わってきた。
数字を見るとやはり心配になり、とてもからかっている場合ではない、と上条は反省する。
上「ごめんな、気付かなくて…。苦しいか?」
美「ううん…平気」
上条の目の色が変わる。
紛れもなく心配の色だ。
途端、上条は立ち上がった。
美「…どこ行くの?」
上「ちょっと買い物行って来る。あいにく家にはお嬢様が食べそうなもの置いてないからな。何か栄養あるもの取らないといけないし…果物とか食えるか?」
美「う、うん」
上「じゃあ、悪い。留守よろしくな」

そう言って、部屋を出ようとした時。

ガシッ。

上「うわ!」
振り返ったのとほぼ同時に後ろから服を引っ張られ、バランスを崩す。

しかし、さらに驚いたことは次に美琴が発した言葉だった。


美「……行かないで」


上「………はい?」
美琴は見たことがない甘えた目で上条を見ていた。
熱のせいなのか、その目は潤んでいる。
上「あの…御坂さん?今なんとおっしゃいました?」上条は思わず敬語で訊き返す。
美「行か、ないで…」
美琴は泣きそうな声で繰り返した。
上「(寂しい…のか?)」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ