上琴小説
□最低の返事
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〈1〉
海「守ってもらえますか、彼女を」
上条は黙って聞いていた。海「いつでも、どこでも、誰からも、何度でも。――――都合の良いヒーローのように駆けつけて彼女を守ってくれると、約束してくれますか」
そして、上条は一言だけ告げて首を縦に振る。
その動作に迷いはない。
美琴は首を横に振った。
美「(かっ、勘違いよ勘違い!―――)」
路地の壁に後頭部をコツンと押し当てる。
美「(…勘違いってわかってんだけど。紛らわしいのよ…あのバカ)」
顔が赤くなっていくのがわかった。
同時に、胸が苦しくなるのも。
美琴はそのまましばらく動くことができなかった。
上「(…ったく。何やってんだろうな俺)」
そうしている間にも上条は行ってしまう。
美「(待って……)」
そして、美琴は心の中で無意識に呼び止めていた。
たが、あまりにも大きな感情が爆発して声にはならない。
その原因を作った人物はますます遠くなる。
その背中を追いかけようとしても足が思うように動かなかった。
それほどにあれは最低な一言だった。
美「(勘違いって…わかってんだけど)」
美琴は胸に当てている手を強く握りしめた。
美「(わかってるけど…)」鼓動は止まない。
告白なんてしたことはないが、おそらくこんな状況に陥るのではないかと思った。
美「(紛らわしいのよ……あのバカ!!!)」
美琴は気が付けば走り出していた。
先ほど買った食べ物の入った紙袋をアスファルトに落としたことさえも気付かずに。
一歩一歩、上条のもとへ。
遠ざかる背中に近づいてゆく。
そして。
美「ま、待ちなさいよ!!」
追いついた。
上条はゆっくり振り返る。上「…御坂?」
美「ま、待てって言ってんの!」
そう、待って欲しかった。この感情を落ち着かせるには、今目の前にいる人物に何かを伝えなければならない。
美「何よ…さっきのアンタのセリフ…」
息を切らしながら、美琴はそう訊いた。
上「お前…聞いてたのか」
上条の表情には驚きが見られる。
美「聞いてたわよ…」
まだ顔が赤い気がした。
むしろさっきよりもだ。
対して上条は茶化すように喋り出す。
上「はぁ…じゃあ何だ。最低だなとか思ったか?」
美「…思ったわよ!!当然でしょ!」
脈絡のない会話が続く。
いくら喋ってもこの感情は抑え切れない。
だからこそ、美琴はケリをつけようと思った。
美「アンタのセリフの意味も…たぶん私は勘違いしてる。……だけど!」
ケリをつけようと。
美「やっぱり…」
ここで言わなければ、後悔する。
美「私…アンタのことが好き…」