上琴小説

□雨の日に
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〈1〉

美「あっ、雨」
帰り道、美琴は空を見上げながら呟いた。
午後のどんよりと曇った空からポツポツと雨が降り始める。
しかし、あいにく傘は持っていなかった。
最近は応援したくなるくらい天気予報も当たらないのである。
美「…ったく、バス停まで走れっていう訳?」
美琴は鞄を持ったまま小走りで足を進める。
バス停まで割と距離があるのが嫌だった。

すると。

ドンッ、と。

曲がり角の所で誰かとぶつかった。

美琴は反射的に目を瞑る。上「わ、悪い」
美「っすみません」

…あれ?

と、非常に聞き覚えのある声に2人は顔を見合わせた。

上「ってお前かよ!ビリビリ」
美「私じゃ悪いの!?ていうか何でこんな所にいるのよ」
上「買い物行こうと思ってただけなんだが?」
会うや否や、2人は喧嘩調でベラベラと喋り出す。
だが、今はそんなことをしている場合ではない。

上「つーかお前、傘は?」

そう、今気にするべきは先ほどから降り始めた雨だ。上条は折り畳み傘と思われるものをちゃっかり使用していた。
美「…」
上「…まさか?」
美「…」
上「忘れ―――」
美「あ〜もう!!そうよ、見ればわかるでしょうが!このバカ!」
上「いや!別に怒ることねえだろ」
そんなことを話しているうちに雨は強まる。
上「ったく…しょうがねえな」

すると、上条は。

美「ひゃうっ!!」
…美琴を無理やり傘の中に入れた。
美「ち、ちょっと」
上「何だ?それともずぶ濡れで帰りたいのか?」
上条はいたって呆れ顔で続ける。
美「…そうじゃないけど」上「なら行くぞ。バス停まででいいんだよな?」
美「か、買い物はどうするのよ」
上「はぁ…お前がずぶ濡れにならないことと買い物することどっちが大事なんだよ」
会話の最後の方で美琴は少し赤面した。
上「とにかく、本降りにならねえうちに行くぞ」
と言って上条はそそくさと半ば強引に歩き出す。
が、彼は隣にいる少女の乙女心に気付いていない。
美「(こ、これって…)」
美琴は上条と同じスピードで隣を歩いた。

美「(アイアイ傘よね…)」

そう、この状況はまさに必然的に2人の距離が縮まってしまうというアレだ。
美琴はいつもと違う雰囲気に、緊張というか変な感じがしていた。
上「何だ?急におとなしくなりやがって」
美「あ…」
上「あ?」
美「ア、アンタは恥ずかしくない訳!?」
上「何がだよ」
美琴はこれ以上追求しても無駄だと気付く…。

相手が鈍感すぎたのだ。

美「…何でもないわよ」
上「変なやつだな」

2人はバス停までゆっくりと歩いた。
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