勿忘草の心2

□10.寂莫
2ページ/5ページ

*****

ロマーリオさんに案内されて、オレはおっかなびっくりディーノさんのお屋敷に足を踏み入れた。
「ははっ、でっけー屋敷だな!」
「まぁ七花を泊めるなら、これが最低基準だな」
オレは何気なく放たれた獄寺君の台詞に、片頬をひきつらせる。
ま……前に七花先輩を、あんな狭いオレん家に泊めちゃったんだけど…………。……それは蒸し返さないでおこうと思う。
オレはとりあえず、前を歩くロマーリオさんに尋ねた。
「それで、七花先輩はどこにいるんですか?」
するとロマーリオさんは振り向き、すぐ近くのドアを指差した。
「悪いが、すぐには会わせられねーんだ。ボスに頼まれててな。まずはここにいる奴らと、姫さんについて話しててくれ」
「え……」
『姫さん』というのが七花先輩だということは、すぐにわかった。
でも、どうして七花先輩のことを話し合う必要があるんだろう。そもそもこの扉の向こうにいるのは、誰なんだろう。
「おい、そこにいるヤツらってのはどこのファミリーのもんだ? まさか同盟破棄して、10代目を危険な目にあわせようってんじゃねーだろうな!?」
相変わらず突拍子もない方向に思考が飛ぶ獄寺君を、オレはあわててなだめる。
「ちょ、獄寺君! ディーノさんがそんなことするわけないよ! これまでだって、いろいろお世話になってるし……」
「そーだぜ獄寺。あんまし人を疑うなって」
獄寺君は「けっ」とぼやいて、人様の屋敷だというのに躊躇なくドアを蹴り開けた。
――――バンッ!!

「どこのファミリーのもんか知らねーが、七花の、こ……と………………」

獄寺君が固まった。オレは中をのぞいて、同じように目を見張る。
ドアの向こうは食堂だった。
しかもそこでは何故か、見知った顔の人たちが紅茶やらレモネードやらを飲んでいる。
言葉を失った獄寺君のかわりに、オレは思いきり叫んだ。

「ななな、なんでヴァリアーっ!?」

*****

「しししっ。沢田綱吉じゃん」
優雅に紅茶飲んでるのはベルフェゴールで、
「ムム。なんでこんな所に沢田綱吉がいるのさ」
レモネードをすすってるのは、確かマーモン。
「う゛お゛ぉい……明日には帰らなきゃならねーって時に、なんでこいつらのツラ見なきゃなんねえんだぁ?」
若干左頬が腫れてるスクアーロに、
「わからないけど、跳ね馬に用事でもあるのかしらん?」
首をひねっているのは、お兄さんと闘ったルッスーリア。
凍らされたザンザスは当然此処にはいないけど、ヴァリアー幹部がこれだけ顔を揃えるなんて、一体何があったんだろう。
オレは戸惑いを隠せず、獄寺君と共に呆然と立ち尽くした。
――しかしこちらには、良くも悪くも天然な山本がいた。
「おっ、スクアーロじゃねーか。なんでこんなとこにいんだ?」
山本はいともあっさりオレたちを抜いて食堂に入り、そう訊ねる。
この状況で笑っていられる山本は、本当にすごいと思う。オレなんて、スクアーロに一瞬睨まれただけでこの場所から逃げ出したくなった。
「……てめーらこそ、何しにこんな所まで来たんだぁ?」
スクアーロは興味なさそうに軽く鼻を鳴らし、山本を横目で見る。
だけど山本が、
「七花先輩に会いに来たんだよ」
と言った瞬間、ヴァリアー全員がこちらをギンッと見据えた。
怖い怖い怖い、めちゃくちゃ怖い。
泣く子も黙る暗殺部隊に殺気を向けられて、オレの中に再び逃走願望が芽生える。七花先輩が関わっていなければ、間違いなくそうしていたと思う。
でも今は、何を話さなければいけないかが、何となくわかった。
七花先輩の名前に過剰なまでの反応を見せたヴァリアー。きっと彼らも、七花先輩と何らかの繋がりがあるんだ。
そしてオレの勘が正しければ、きっとこの人たちも――――……。
「ししっ。ま、手間が省けたと思えば楽か」
真っ先に動いたのは、ベルフェゴールだった。すっと立ち上がってこちらに歩み寄り、ナイフ片手に笑ってみせる。
「――お前らも七花のこと、好きなわけ?」
単刀直入な問いかけは、やっぱりオレの予想通りだった。
「て……ってめーらも七花のこと……!?」
「……そうなのかよ? スクアーロ」
獄寺君は驚いたように数歩後退り、山本はきゅっと拳を握り締めてヴァリアーの面々を見やる。
対するスクアーロは、敵意剥き出しで肯定した。
「たりめぇだぁ。七花はオレに必ず惚れる」
「しししっ。カス鮫、そのわけわかんねー自信どっから来んの? 七花は王子と結ばれるんだよ。な、マーモン?」
突如話を振られたマーモンは、呆れたようにため息をついている。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ