勿忘草の心3

□1.経過
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みんなに出会ったのは、私が高校生の時だった。
あれから十年。
ゆっくりだけれど少しずつ、世界は変わっていった。
ツナくんは日本支部を活動拠点にしたイタリア自警団の10代目になり、私の周りにいた人たちはそれについて行く形になった。
元はマフィアだった組織をツナくんが一から変えたというのだから、彼は本当にすごいと改めて思う。そしてそんなツナくんを慕う隼人くんや武くんが同じ道を志すのも、やっぱり彼ららしい気がする。
ザンザスさんたちはイタリア本部にいて、ツナくんが10代目を務める自警団“ボンゴレ”の中でも独立自衛部隊“ヴァリアー”に所属している。
実はディーノさんたちも彼らのお得意さんで、“キャバッローネ”なる組織にいると最近知った。世間は狭い。
紗知はOLとしてバリバリ働いては、ひいひい言っている。最近は上司の愚痴なんてものも増えてきて、あぁ、大人になったんだなぁと実感する今日この頃だ。
さて、肝心の私はといえば。
あれから、イラストレーターを目指している。
とは言えそんなに簡単になれるものではない。
私は大学を卒業してから絵の専門学校に通い、小さな仕事をもらいながらアルバイトをして過ごしていた。
過ごして“いた”。
そう、過去形である。
大学時代迷ったものの、特定の会社に就職せず夢を追いかけていた私。家族は私の生き方も私のものだから、と認めてくれた。
自治体の掲示板の一部のデザイン、近くの店の広告。任せてもらえる仕事は小さくても、好きなことを頑張れるのは幸せなことだと思う。
数々の賞に応募しては入賞にかすりもしない日々の中、とある企業が私の絵を目にとめてくれた。
何を隠そうアルバイト先である。
絵本の装丁をするその会社が、今の私の勤め先だ。
周りは結婚する人も増えてきて、あぁ、そんなに年月が過ぎたのかと思う今日この頃……などと言っている余裕は、当然ながら私にはない。
何故ないのか。
これに関しては言うまでもないのだろうが――――


……私はまだ、誰にも返事ができないままにいる。


*****

「七花先輩!」
送迎車の窓から顔を出して、愛する人の名前を呼ぶ。
「ツナくん!?」
仕事を早めに切り上げてきたオレは、ようやく七花先輩に会えた喜びで破顔した。
ここ最近忙しくて七花先輩不足だったから、なおのことうれしさが増す。
「先輩、お疲れ様です!」
「ツナくんもお疲れ様だけど……、え、な、なんでこんな所に? ボンゴレからもツナくん家からも遠いよね、うちの会社」
戸惑う七花先輩の言う通り、此処からボンゴレの日本支部までは車で一時間以上ある。
リボーンに借りを作ってまでオレが先輩に会いに来る理由。そんなもの、一つしかない。
「先輩に、会いたかったから」
「!」
先輩が目を丸くして、少し赤くなる。
「い、言ってくれれば私だって、ちゃんとメイクとか服とかオシャレしたのに……!」
「先輩」
車から降りて、今はオレの目線の下にある先輩の頭をなでる。
「ツナく、」
「オレが、会いたかっただけだから。日曜日までなんて、我慢できなかったんです」
先輩が瞬きして、目線を泳がせて、やがて少しだけはにかむ。
結局我慢できなかったオレは、欲求に従って眼前の小さな体を抱きしめた。
「今はオレが恋人なんだから……これくらいのワガママ、許してくれませんか?」
「あの、その、えと、……………………はい…………」
異性と触れ合うことにまったく慣れていない先輩が、さらに硬直するのが愛おしい。
……叶うなら、この人が永遠にオレのものになればいいのに。
胸を締め付ける願いに苦笑した。
告白できなければ、今こうすることすらできなかったんだ。
それを思うと、オレはあの日の自分が少し誇らしい。

オレが七花先輩に、想いを告げた日。
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