きみだけに捧げる狂想曲

□トモダチ
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笹川京子ちゃんは、すごく可愛い。学年でも噂になる、いわゆるマドンナだ。私は心の中で彼女を“微笑みの女神”と呼んでいた。
対する私は、一言で表すと引っ込み思案で地味。良くも悪くも目立たない存在だ。
そんな私が一年生の時から唯一仲良しだったのが、沢田綱吉くんだった。
ダメツナなんて呼ばれるくらい、いろいろ空回りしている男の子だったけれど、まったく誰の頭にも残らない私よりは愛されてるんだと思う。
沢田くんが掃除を押し付けられていて、それを私が手伝ったのがきっかけだった。
『ありがとう、棟冬さん。助かったよ』
私の苗字を覚えていてくれた。私の存在を知っていてくれた。それがすごくうれしかった。
『う、うぅんっ。沢田くん、大変そうだったから……』
『あはは……なんかオレ、何やってもダメなんだよね』
そんな会話から始まって、気付けば仲良くなっていた。
クラスで二人一緒にいると、変な噂を立てられかねない。私たちは、お互いが大変そうな時には助け合い、基本的には携帯電話のメールで連絡を取り合う、密かな友達関係だった。
だけど私は、はっとした時にはもう、優しくて少し頼りない彼のことを好きになっていた。
……でも沢田くんは、同じクラスの笹川さんのことが好きだった。見ていればわかる。
笹川さんは可愛くて優しくて、完璧な人だ。私に敵うはずもなく、そもそもあんな人と私を比べること自体失礼だと思う。
目立たない私に、マドンナ笹川さん、控え目な沢田くん。
一年生の間、私たち三人に繋がりはなかった。
けれど私が二年生になってから、その関係に小さな変化が生じた。
『席、隣だね! 私は笹川京子。これからよろしくね!』
『あ……あの、うん、よろしくね……っ』
私と笹川さんが、席替えで隣の席になったのだ。
『棟冬六月ちゃん、……でいいんだよね?』
どこまでも完璧な笹川さんは、あんなにも目立たなかった私のことまで覚えていてくれた。さすがは容姿端麗な微笑みの女神。
私は内心感動していた。
『私のことは京子って呼んでね! 私も、六月ちゃんって呼んでいいかな?』
『う、うううううん、ももちろん、です』
どもる私に、京子ちゃんはくすくす笑って言ってくれた。
『可愛いね、六月ちゃん。私たち、これから“友達”にならない? 仲良くしてくれたらうれしいな』
私は、みんなのマドンナに話しかけて文句を言われないかと不安で、きょろきょろ周りを確認してみた。でも、特に抗議の視線は向けられていない。
私は頬を真っ赤にして、何度もうなずいた。
『よ、喜んで!』
こうして私に、京子ちゃんという女の子の友達ができた。
だけど私は、この時忘れていた。沢田くんの好きなひとが誰なのかを。


「六月ちゃん、お弁当一緒に食べよう!」
「う、うんっ」
私と京子ちゃんが仲良くなると、花ちゃんという友達もできた。沢田くんにも獄寺くんと山本くんという友達ができた。
ひとりぼっちだった一年生とは違い、すごく楽しい日々が続いている。ただ私の心にわだかまるのは、沢田くんとの距離が遠のいたことだ。
話すかわりにメールしていた去年とは違って、二年生になってからは数日に一、二回しかメールすることがなくなった。沢田くんが視線をこちらに向けることがあっても、それは京子ちゃんを見ているだけ。
沢田くんの中から、私の居場所がどんどん消えていく。それが悲しかった。
だけどそれは仕方ないことだ。だって私はいつも物語の脇役で、ただみんなの邪魔をしないようひっそり生きていけばいいのだから。
孤独にならなければそれでじゅうぶんだ。いじめられなければ、それだけで満足だ。
そう自分に言い聞かせるものの、結局諦めきれず、私の目はいつも沢田くんを追ってしまうのだった。
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