きみだけに捧げる狂想曲

□サヨナラ
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『――放課後すぐ、一人で屋上に来て』

山本くんに呼ばれた私は、いったい何の用だろうと思いつつも、うなずいていた。
京子ちゃんは一緒に行くと言ってくれたけれど、相手は山本くんだ。私に何か危害を及ぼす可能性なんて、あるわけがない。
山本くんは私にだけ耳打ちしてくれたわけだし、『一人で』と言われている以上、他の友達は連れて行かない方がいいと思った。
何か秘密の相談かもしれないし、他人に聞かれたくないことかもしれないから。
私がそう伝えると、京子ちゃんは渋々といった様子で、『……六月ちゃんが、それでいいなら』と引き下がってくれた。
さて、山本くんは私に何の用があるのだろう。
心当たりがないだけに、少しの不安を抱えながら、私は屋上へと続くドアを開けたのだった。

*****

オレは担任が“また明日”と言うや否や、全力疾走で屋上を目指した。
皆の声が後ろから聞こえる。
「今日も山本、部活張り切ってるねー」
「まぁ、奴は野球バカですから」
「山本、また明日ねー!」
よし、成功。
皆オレは部活のために急いでいると勘違いしてくれた。
もちろん本当の理由は違う。
先に屋上に行って、六月を待つためだった。
やっぱりこういう時は、男が先に行って待ってないと駄目だよな。そもそも誘ったのはオレだし。
……デートって、こんな感じなんだろうか。ふとそう考えたら、一気に顔が熱くなった。
二人一緒に教室を出れば、確実に怪しまれる。
笹川にはもうバレているに違いないが、せめてツナや獄寺には隠したかった。
オレは、笹川や周りの女子や獄寺にごちゃごちゃ邪魔されることなく、きちんと二人きりの状況で告白したかったんだ。
「はー……っ」
たどり着いた屋上のフェンスに肩を預けると、カシャンという音が響いた。
オレは少しだけ乱れた息を整え、晴れ渡る空を見上げる。
どきんどきん、
走ったからではない鼓動の高鳴りが、うるさいくらいだ。“告白”というものが、こんなに緊張するものだということを今初めて知った。
ただ『好きだ』と告げるだけなのに、こんなにも勇気が必要だったんだ。
緊張するし、不安だし、正直に言えば怖い。一度告白してしまえば、友達の関係には戻れないかもしれない。
それでもオレは、言いたかった。
目が合うと、いつも笑顔を見せてくれる六月。
ちょっとびくびくしてる、可愛い六月。
かと思えばいざという時はやけに頼もしい。
そんな不思議な魅力を持つ六月に、オレはもうハマってるんだ。今さらどうしようもないくらいに。
笹川の六月に対する感情は、今でもやっぱりわからない。同性でも恋愛感情を抱いたりするのだろうか。
どっちにしても、オレの恋を応援してくれるとは到底言えない態度だ。恋敵には変わらない。
獄寺は確実に六月のことが好きだし、ツナの気持ちも現段階ではまったくわからない。
だったら、オレが一番に気持ちを伝える。そして、意識してもらうんだ。
――――言えるうちに、手が届くうちに。

スクアーロが死んで、オレは内心焦りを感じていた。人の“死”に触れて実感したこと。
“人は簡単に死ぬ”
“すぐ傍で感じていたぬくもりが、一秒後にもあるとは限らない”
六月が死ぬなんて考えているわけじゃない。
六月はオレが守る。それに笹川もツナも、皆が六月を守るからきっと大丈夫だ。
でも、かすかな不安がどうしても拭えなかった。
言えずに後悔するような事態になる可能性がゼロじゃないのなら、オレは言っておきたい。
オレのこの、小さく灯った想いを。
――ギィ、
見つめていたドアが開いて。
「あ……山本くん」
ほっとしたような表情の六月が、そこにいた。
オレは照れ隠しに頬をかいて、フェンスから体を離す。
「来てくれて、サンキューな」
「うぅんっ、暇だから気にしないで!」
六月は笑顔を向けて、駆け寄ってくる。
でもその笑顔は、すぐに心配そうなものに変わった。
「えと、それで……あの、……、何か困ってることとかあるの……?」
六月らしいと言えば六月らしいが、彼女は自分が告白されるとはまったく考えていないようだ。
それが少しおかしくて、オレは軽く吹き出した。
「えっ、な、なんで笑うのーっ!?」
真っ赤になってあたふたしている六月に、癒される。
「……うん。ちっと困ってることがあるのな」
オレが笑いをこらえながらそう言うと、六月は小さな両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。
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