きみだけに捧げる狂想曲

□ホントウ
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あれからクロームちゃんは意識を失い、救急車で病院に搬送された。
もちろん私もついて行って、眠るクロームちゃんの手を握っていた。
お母さんにも連絡して、『友達が意識不明で入院することになったから、目が覚めるまで病院にいる』と伝えてある。元々並盛総合病院は家から近いので、お母さんも一度お見舞いに来た。
『明日は学校休んでもいいから、六月は友達についててあげなさい』
お母さんはそう言ってくれた。
私はクロームちゃんの意識が戻ることを信じて、ひたすらに祈っていた。

*****

――そして夜になって、ようやくクロームちゃんが目を覚ました。

「…………六月、ちゃん……?」
「! クロームちゃんっ!!」
私はもう泣きそうになりながら、クロームちゃんの手をぎゅっと握った。
だって、あんなに血が流れた後に意識を失くしてしまったから、死んでしまうんじゃないかと心配で仕方なかったのだ。
よかった。本当によかった。
「……どうして六月ちゃんが此処に?」
「そんなの、クロームちゃんが心配だからに決まってるじゃない!!」
私が涙混じりにそう言うと、クロームちゃんはほんの少し目を丸くした。
「心配……? どうして?」
どうしても何もない。
まだ知り合って間もないけれど。
謎は多いけれど。
正直わからないことだらけだけれど。
私にとってクロームちゃんは友達だからだ。
「クロームちゃんが、友達だからだよ……!」
「とも、だち……」
不思議そうな顔をするクロームちゃんに、私は大きくうなずいた。
「……私の役目は、骸様のために六月ちゃんを守ること。それが、友達、なんて…………」
「役目とかそんなのはどうでもいいの!」
私は少し怒っていた。
“守る”という言葉は、すごく重いものだ。
“約束を守る”、“誰かを守る”。簡単なようでいて難しく、とても大切なこと。
クロームちゃんは私を“守って”くれた。言葉の通り、私の無事を何より案じてくれた。
ならば私も、クロームちゃんを“守りたい”。
男の人に変身する力なんてないし、ケンカで勝てる自信もない。だけどせめて、クロームちゃんの心は守りたいから。
目覚めた時に誰かが手を握っていてくれたら、きっとうれしい。
だから私は此処にいる。
こうして互いを守ろうと思う間柄を“友達”と呼ばずして、何と呼ぶつもりなのか。
「私はクロームちゃんの友達だから。だから此処にいるの。クロームちゃんが目が覚めたとき、寂しくないように」
「六月ちゃん……?」
私はクロームちゃんの目を見て、はっきり告げた。
「私に変身する力とか、ケンカで勝つ力はないけど……私は、クロームちゃんの『心』を守るよ」
「!」
うまく言えなくても、せめて気持ちが伝わるように言葉にする。
それが今の私にできること。
「クロームちゃんが私を守ってくれるなら、私もクロームちゃんの心を守るよ。悲しい時は傍にいるし、うれしい時は一緒に喜ぶから。クロームちゃんを独りにしないから。私たちは……もう、友達だよ」
クロームちゃんの瞳が、大きく見開かれた。
私は微笑んで、一番言いたかった台詞を口にした。
「守ってくれて、ありがとう」

*****

私は必要とされない子だった。骸様だけが私を必要としてくれた。
だから私は、骸様のために在る。
……だけど六月ちゃんは、初めて私を『友達』だと言ってくれた。
骸様の好きな人。だから私も好きだった。
でも今は違う。
六月ちゃんだから、守りたい。
六月ちゃんだから、好き。
六月ちゃんだから、骸様の一番になったんだって、わかる。
私は決めた。必ず、六月ちゃんを守り抜く。
まずヴァリアーとの戦い……霧の守護者としては、必ず勝つ。平穏な六月ちゃんの日常に、もう二度とヴァリアーもマフィアも近付かせない。
それから、笹川京子の言動にも注意しなければならない。彼女はあまりにも、危ういから。
六月ちゃんを守ってくれるならそれでいいけれど、一歩間違えば六月ちゃんを監禁しかねない。
――骸様。六月ちゃん。
私には、生きる理由が二つもできた。
私には、生きる理由が二人もできた。
だから私は、左目からこぼれる雫を止められないままに、精一杯の微笑みを浮かべる。
「ありがとう、六月ちゃん」
六月ちゃんも笑ってくれた。それがすごく、うれしかった。
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