きみだけに捧げる狂想曲

□タイセツ
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可愛い私の六月ちゃん。
私が見つけた六月ちゃん。
優しい六月ちゃん。
大好きな六月ちゃん。



……六月ちゃんは、誰にも渡さない。

*****

この日私は、不思議な体験をした。
いつものように、朝京子ちゃんを迎えに行く途中のことだ。
「棟冬……六月さん?」
眼帯を付けた、不思議な髪型の女の子に声をかけられた。
彼女の制服は確か、このあいだ黒曜ランドで会ったあの人と同じものだったと思う。

『――貴女が解放してくれるというのですか? 棟冬六月』

そういえば、結局あの人の名前はわからずじまいだったな、と思いつつ、私は小首をかしげた。
なんだかこの子の髪型は、あの人に似ている気がする。槍を持っているところも彼と同じだ。もしかして兄妹なのだろうか。
謎は多かったものの、とりあえず私は彼女の問いに答えた。
「はい。そうですけど、あなたは……?」
すると少女は私に歩み寄り、大きな瞳で私の目を見つめた。
「私はクローム髑髏」
「く、クロームさん……」
この可憐な少女は、どうやら外国の人らしい。
しかしクロームさんは、すぐに首を横に振った。
「私のことは、クロームって呼んで」
さん付けはよろしくなかったようだ。確かに若干、他人行儀かもしれない。
私は気を取り直して、彼女に笑顔を向けた。
「じゃあ、クロームちゃん!」
クロームちゃんはわずかに微笑んで、私の手を握る。
「ありがとう、六月ちゃん」
こんなに可愛らしい女の子に突然声をかけられて、驚き半分喜び半分だ。
ただ、彼女が何故私の名前を知っているのかも、何故私に声をかけたのかも、わからない。
私がそれを尋ねようとした時だった。
「私は――あなたを護りに来たの」
クロームちゃんの言葉は、私が予想だにしないものだった。
「え……守るって、……何から……?」
けれどクロームちゃんは、応えてはくれない。
私の目をじっと見つめたまま、淡々と告げる。
「私は骸様が好き。骸様が大事にしてるものも……好き。骸様が好きなひとも……好き」
……“ムクロサマ”?
それが誰を指すのかわからず、再び私が問いかけようとしたとほぼ同時だった。
左頬を、柔らかな感触がかすめた。
「…………」
しばし固まっていた私だが、クロームちゃんにキスされたと気付いた瞬間、顔が熱を帯びる。
「く、くくくクロームちゃんっ!?」
クロームちゃんは表情一つ崩さず、もう一度私の頬に口づけた。
「だから私も……あなたが好き」
まったくもって理解不能な展開に、私の頭が真っ白になりかけた、刹那。

――――ガキィン!

クロームちゃんの槍に、凄まじい勢いでナイフが当たった。
「!?」
クロームちゃんは難なくナイフを弾いたが、私は思わず息をのんだ。ナイフが飛んでくる速度が速すぎて、どこから投げられたのかもわからない。
ただひたすらに周囲を見回す私に寄り添い、クロームちゃんは左に槍を構えた。
そして口を開く。
「あなたが……笹川京子」
「! 京子ちゃん!?」
クロームちゃんの視線を追うと、そこには本当に京子ちゃんがいた。
しかも京子ちゃんは、ものすごく怒っている。
「六月ちゃん!!」
ずんずんこちらに歩み寄り、私の手を引く京子ちゃん。
私は半ば呆然と、されるがままになっていた。
「……笹川京子。あなたに六月ちゃんは渡さない。骸様からの伝言」
「……っ六月ちゃんをあんな鼠に渡すか!! 六月ちゃんを守るのは私!」
クロームちゃんはまだ何か伝えたいようで、そっと私に手を伸ばした。
「六月ちゃんを守るのは、私。――ボスの霧の守護者である、私。あなたでは、彼らに太刀打ちできない」
京子ちゃんは私を自分の背中に隠すようにして、クロームちゃんと対峙する。
「六月ちゃんに触るな!! あなたなんかに守ってもらわなくても、六月ちゃんは私が守る!」
京子ちゃんは、震える右手でナイフを構えた。
「六月ちゃんに近付く奴なんて許さない! 誰も六月ちゃんには近付かせない……っ、六月ちゃんに危害を加える奴なんて、何があっても絶対に許さない!!」
「京子ちゃん……」
私には何が起きているのかわからなかったが、京子ちゃんとクロームちゃんにはわかっているみたいだった。
「……あなたじゃ、彼らに太刀打ちできない。だから私が、六月ちゃんを守るように骸様に言われた」
「誰が来ようと、私が六月ちゃんを守る……っ! 六月ちゃんの隣にいるのは、私だけでいいのっ!!」
それは歪で、でも真っ直ぐな愛情だった。
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