きみだけに捧げる狂想曲

□ムシケラ
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オレはいつもダメツナと言われてきた。でも、そんなことを言わなかった人が京子ちゃん以外に、もう一人だけいる。
同じクラスの棟冬六月さんだ。彼女はいつも、穏やかに柔らかく笑う。
こんなオレが押し付けられた雑用さえ手伝ってくれて、初めてのメル友になってくれた。棟冬さんには、本当に感謝してもし足りない。
だからオレにできることをしたくて、彼女と山本の仲を取り持とうと思ったんだ。
……でも、なんでだろう。
山本が棟冬さんの頭をなでた時、変な感じがしたのは。


――『沢田くん、詳しいことはわからないけど、ちゃんと無事に帰って来てね。あと、えっと……京子ちゃんは無事だから安心して下さい』――


骸との戦いが終わって、疲れきったオレはそのメールを見ながら、うとうとしていた。
よかった。
ビアンキやシャマルのおかげで、京子ちゃんには何もなかったらしい。メールをくれるところからして、棟冬さんも無事なんだろう。
オレは戦いのことは伏せて、とりあえず並中生襲撃事件の首謀者が捕まった旨をメールした。
それからすぐに、棟冬さんから安否を気づかうメールが送られてきた。
最近ずっとメールのやり取りをしていなかったから、なんだかひどく久しぶりだ。
きっと明日はヒバリさんも登校して、事態は一応の収拾を迎える。
さて、明日はどんな風に山本と棟冬さんの接点を作ろうか。一緒に弁当を食べるのもいいかもしれない。
オレは棟冬さんが笑ってくれることを楽しみにしながら、眠りについたのだった。

*****

棟冬は、ちっと変わってると思う。
何故かオレと話す時は敬語だし、いつもびくびくしてる。
ヒバリからしたら、“小動物”なのかもな。
ツナの提案で一緒に飯を食うようになってから、オレはそんな棟冬を可愛いと思うようになっていた。
なんつーか、守ってやりたくなる。
最近敬語は外れてきたけど、まだオレと話すのに緊張してるらしい。
なんでなんだろーな。
「棟冬、いつも家では何してんだ?」
オレが話しかければ、棟冬はあたふたしながら目を泳がせる。
「へ!? え、えっと私は………………な……何してる、のかな……?」
「ははっ! オレが訊いてんのに、訊き返されちまったのな」
すると棟冬は、真っ赤になってうつむいた。
「あああああのっ、ご……ごめんなさい……」
別に謝ってほしいわけじゃない。
何が好きで、どんなものに惹かれるのか知りたいだけだった。
でもオレがそう言う前に、棟冬の隣にいた笹川が口を開いた。
「気にしなくて大丈夫だよ、六月ちゃん。普段何をしてるかなんて、急に聞かれたってわからないよね」
笹川が、ほんの少しだけ目を細めてオレを見る。
最近になって気付いたけど、笹川はオレをあんまり良く思ってないらしい。
というより、棟冬以外の人間への接し方が冷たい。
オレがそれに気付いたのは本当につい最近のことだったが、注意して笹川を見ているとよくわかる。
矢面に立つようなあからさまな行動は決してしない。ただ、棟冬と誰かの距離が縮みそうになると、さりげなく阻止しようとする。
もちろんオレは、嫌われるようなことをした覚えはない。
だからオレは諦めず、話題を変えて棟冬に再び話しかけてみた。
「棟冬はさ。なんでオレと話す時、目合わしてくんねーの?」
「!」
しばらく沈黙が流れた。
棟冬の目は泳ぎまくっていて、何度も口を開いては閉じ、頭を左右に振っている。
笹川から鋭い視線を感じたけど、オレは知らなかったことにした。
今はただ、知りたいんだ。
棟冬が何を考え、オレをどう思っているのか。
怖がらせるような物言いもしたことはないはずだ。
君とオレとを隔てるものは、いったい何なのか。
「……あ、あの……えっと……!」
顔を真っ赤にして頑張る姿は、正直ツボだった。
ヤバい。
めちゃくちゃ可愛い。
とは言え、こちらの弁当チームには当然ツナと獄寺がいる。
短気の代名詞みたいな獄寺は、棟冬の態度に焦れて大きな声を出した。
「おい!! オレと10代目の貴重な昼休みをこれ以上浪費するな!」
その声の大きさにびっくりしたのだろう。
棟冬は目を大きく見開いて、姿勢をしゃんと伸ばした。
「やっ、山本くんがアイドルみたいにきらきらしてて! 恥ずかしいっていうか、こんな私が近づいていいのかとか……他の女の子に申し訳ない、とか……」
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