勿忘草の心2

□4.前夜
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まぁ……あのベルの、初恋だ。僕も応援してあげたい気持ちはある。
だから、特別にタダで助言をあげることにした。
「ねぇベル」
「んー」
「さっき、七花に避けられるのが怖くて告白できないって言ってたよね」
ベルが顔を上げて、僕の方をじっと見た。いや、目は前髪に隠れてるけどね。
「雲雀恭弥は……スクアーロは、怖くなかったと思うのかい?」
「……!」
告白しなければ、関係がこじれることもなく近くにいられる。でも、隣に立つ“たった一人”としては見てもらえない。
「スクアーロなんて、今は実際に避けられることもあるけど……ちゃんと男として意識してもらってる」
「…………」
恋敵が多いなら、好きになってもらえる努力をしなければ決して報われない。ましてや弟のように思われているなら、そこから抜け出そうとするか否かは本人次第だ。
「君は……どうしたいんだい?」
ベルはしばらく黙り込むと、ぽつりぽつりと心境を語り始めた。
まだ整理のつかない自分の思いに戸惑っているのが、痛いほどに伝わってくる。
「わかんねーんだよ……。傍にいたいし、笑ってほしーし、ずっと一緒にいてーよ。でも、……でも、スク先輩に迫られてる七花を見ると、苦しい。スク先輩とか跳ね馬相手に頬染めてる七花も、見たくねー」
僕は珍しく殊勝なベルを見ながら、心底思った。
恋は人を変える。
「……ほんとはオレだけ見てほしい。他のヤツなんて見向きもしねーで、王子だけ見てほしーよ。だってオレの頭ん中、七花でいっぱいなんだぜ?」
ベルが、心なしか明るい表情でベッドを揺らす。
「……しししっ。今でも七花に抱きつきてーし、とにかくぎゅうってしてーし。もう跳ね馬もカス鮫も殺っちまって、王子だけで独り占めしてーよ」
僕はふん、と鼻を鳴らして軽く笑った。
何さ、もう君の中では答えなんて出てるんじゃないか。
七花のこと、どれだけ楽しそうに話してるのか……自覚してるのかい?
僕はベルの肩に乗って、教えてあげた。
「君が告白したら、きっと七花は君を一人の男として見てくれるよ」
「! そしたら、オレにも照れた顔見せてくれたりすっかな?」
「きっとね。七花はああ見えて、押しに弱いタイプだから。むしろ、スクアーロにこのままガンガンアプローチさせてたら、いつか七花がスクアーロに落ちる可能性だってあると思うよ」
途端にベルが、どこからか出したナイフをくるくる弄び始める。
「……ししっ。ありえねーっつーの。姫と結ばれんのは王子って――昔から決まってんだからさ」
ベルの肩を持つようで悪いけど、スクアーロは放っておいても自分でなんとかするだろう。
どこか吹っ切れた様子のベルは、ベッドから勢いよく立ち上がった。
「ありがとな、マーモン。オレ、ちゃんと七花に言うわ」
「……そう。健闘を祈るよ」
僕には調べることがあって、明日の仮面舞踏会には行けない。というより元から興味もないんだけどね。
……それにしても七花。君は本当に興味が尽きないね。こんなにマフィアを惹き付ける人間を見るのは初めてだ。






――明日はもしかしたら、大変な一日になるかもしれない。


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