勿忘草の心2

□2.再会
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あぁ、そうか。ようやくオレにもわかった。七花が纏っていた覚悟も、死を恐れない理由も、そしておそらくあのペンダントを大事にしている理由も。
きっとそいつが原因なんだ。
「スクアーロさん、私とした約束なら、もう果たしてもらいました。私はあなたに、じゅうぶんすぎるくらい守っていただきました。だからもう、私のことは気にしないで、新しい恋愛……して下さい」
……まだまだ甘いな、七花は。
「う゛お゛ぉい、オレは前言撤回なんて、死んでもしねえぞぉ!」
「………………へ?」
さっきまでの穏やかな面はどこへやら、七花は目を丸くしてオレを見やる。驚いた顔は年相応で、なんとなく笑いが込み上げてきた。
オレは誰を相手にしようと、一度口にした信念を曲げることはない。
跳ね馬に、ベルに宣戦布告した時から、オレの感情は何一つ変わっちゃいねえ。むしろ前より強くなった。
敵が仲間だろうが年下だろうが、女だろうが死者だろうが、オレは初めて聞いた未来を“本当”にする。
七花の恋人に、なってみせる。
そしてこれからも、七花に害なすものから七花を守る。
「オレは一度言ったことは曲げねえ。それにこれは意地でもねえ。……オレはもう、お前しか愛せねぇんだぁ」
七花。
お前に会ったあの日から、オレの中で女はお前だけになった。綺麗なだけの女も、街で評判の美女も、どこの女も、ほしいと思わなくなった。頭の中を占めるのは七花のことばかりで。
オレがほしいのは、七花。七花の心だ。
「……あの日キスしたことも、謝らねえ。オレはいつか必ず、七花を手に入れる」
「……! ど、どんだけ自信家なんですか!」
紅潮した七花の頬に軽いキスを落とし、オレはベッドから立ち上がった。
「オレはオレの命が続く限り、お前を守る。お前の恋人の座も、手に入れる」
「ちょ、そ、そんなこと言われたって……!」
「遠慮はしねえ。死んだお前の想い人にもなぁ」
混乱している七花には悪いが、オレの覚悟はとうに決まっている。
オレは唇の端を吊り上げた。
「恨むなら、このオレに惚れられた自分を恨めぇ」
「…………っそ、そんな勝手なこと言うなら、私を諦めてくれるまで、『スっくん』って呼びますよ!?」
そんなことでオレが諦めると思っているのだろうか。やはり、変なところで鈍い。きっと七花は、恋愛に慣れていないんだろう。だからオレの抱く感情が、理解できていない。
なら、理解させてやるまでだ。
してやったり、と言いたげな七花に、オレは極上の笑顔を向けてやった。
「あ゛ぁ。うれしい限りだぁ」
「……っ!!」
ついに七花の顔の火照りが、最高潮に達した。
「す……スっくんのばかぁああっ!!」
ダダダダダッ、
叫んで部屋を飛び出す七花の後ろ姿に、小さく告げる。
「……そんな簡単に、諦められるかぁ」
何とでも呼んでくれ。お前がつけてくれた愛称なら、どんなもんでもうれしい。
七花しか呼べない、オレの名前。名前には力が宿る、と聞いたことがある。
七花だけがオレを支配できるような、そんな錯覚にさえ歓びが込み上げた。
一人残された部屋から出て、かつての級友をさがしながらつぶやく。








「だから七花……早くオレを好きになれぇ」


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