白薔薇の命

□薔薇は静かに眠る
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マフィアといっても、仕事はいろいろある。今回キャバッローネに来た依頼は、ある人物の護衛だった。
依頼人は、ボンゴレのお得意様とも言える日本人の金持ちだ。彼の娘は体が弱く、娘がイタリアに療養に来ている間、護衛をしてもらいたいのだという。
よほど娘を溺愛しているのだろう、個人的に雇ったSPだけでなく、ボンゴレ関係組織の頭にも声をかけているそうだ。
ロマーリオたちは心配していたが、役目はあくまで護衛だし、幸いオレは日本語が話せる。
『ボスもしくは幹部クラスにお願いしたい』
その言葉通り、オレは依頼を受けることにした。
ただし、条件が一つあった。
『娘にマフィア関係者だとバレないこと』
どうやら依頼人は、ボンゴレの得意先でありながら、愛する娘を思うあまり、マフィアとの関係を何一つ明かしていないらしい。
こうしてオレは、その宝を護衛するために依頼人の家に来たのだが――。
「……屋敷、でけぇー……」
さすが金持ち。イタリアにあるのは別邸だと聞いていたが、すでにキャバッローネ本邸よりでかい。
セキュリティも完璧であろう門の前には、スーツのSPが20人ほどずらっと並んでいる。
え、これってオレいらなくね?
とか思ったものの、気を取り直して門をくぐる。オレの場合は顔パスだから、何も言われずに通れた。
門から屋敷の入口まで、手入れの行き届いた庭が広がっている。花の咲き誇るアーチに出迎えられた時は、さすがに驚いたが。
重厚な扉の前のSP数人を横目に玄関に入れば、当然のように広がる大理石の床。
「キャバッローネファミリーのディーノ様でよろしいでしょうか」
「ああ」
執事と思われる青年に荷物を預け、オレはメイドに二階へと案内された。
「旦那様は仕事から手が放せず、ご帰宅は夜になるとのことです。ディーノ様がお着きになり次第、お嬢様に会っていただくようにと言われておりますので、どうぞこちらへ」
きらびやかで広い階段を上り二階につくと、長い廊下にはいくつものドアがあった。これだけあるなら、絶対使われていない部屋があると思う。
「お嬢様の部屋は階段から3つ目、白薔薇の間になります。ディーノ様の部屋は階段から2つ目、お嬢様の隣です」
ドアの中で一つだけ、真ん中に白い薔薇が彫られたものがあった。メイドはそのドアをノックして、中に声をかける。
「月乃お嬢様、ディーノ様がお着きになりました」
なるほど、ここが例の娘の部屋――『白薔薇の間』か。ジャッポーネでも屈指の金持ち、梓川財閥のお嬢様がこのドアの先にいる。
オレは一度息をのんで、返事を待った。

「どうぞ」

聞こえてきたのは、落ち着いたメゾソプラノの声だった。
ただ挨拶に来ただけなのに、なんだかドキドキする。
落ち着け、オレ。
中にいるのがどんなじゃじゃ馬でも、恭弥に比べたらかわいいもんだ。
待ち構えているのがどんな悪癖の持ち主だろうと、リボーンのようにいきなり発砲したりはしないはずだ。
いや、ちょっと待て。
さっきからなんでオレは凶悪な相手の想像しかしてないんだ。
オレは何度か頭を横に振り、妙な先入観を追いやった。
どんな相手でも、一度受けた仕事だ。キャバッローネの名にかけて、必ず梓川月乃は守り抜く。
「失礼します」
そう言ってメイドがドアを開けた、緊張の瞬間だった。
ついっ、
「あゎ……っ!」
こともあろうに、オレは自分の靴紐に足を取られて。
「ちょ、待っ……」
開いたドアへとつんのめり。
「お、わ……っ」
そのままけんけん状態で何歩か部屋に入り。
「あべしっ」
びったーん、と盛大にコケたのだった。
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