月見草の恋

□ひたむきな姿は美しい
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全部手に入れたい。このか弱い存在の全てを。他の誰を蹴落とすことになろうとも。
「たけし、……ったけし……!」
必死にオレにしがみついて、口づけに応える葵が愛しくてたまらない。
葵の唇は、まるで麻薬のようにオレの理性を奪っていく。
「葵……愛してる。愛してる……」
「たけ、んぅ……、はあ……っ」
その時ふと気付いた。葵の眦に、涙が一筋流れている。
オレは残る自制心を総動員して、体を離した。
「葵……オレが怖い、か…………?」
「……たけし、すき。怖くない」
「じゃあ、なんで泣いてんだ……?」
言われた葵は、力の抜けた手で目尻の涙をぬぐった。そして、オレから視線をそらして小さくつぶやく。
「…………から」
オレは聞き取れずに、もう一度訊き返した。
「何だ?」
葵は頬を真っ赤に染めて、まだうまく回らない舌で言い切った。
「……ったけしのキス、気持ちいーの……っ。そしたらふわーってなって、頭の中がたけしばっかりになって、気付いたら涙出てらの……っ」
――あぁ、この存在はどこまでオレを惹き付ければ気が済むんだろう。
オレは再び体を倒し、葵と目を合わせて問いかけた。
「……葵の『特別な好き』……オレにくんねーか?」
葵は目をぱちぱちさせている。
「たけしに……?」
「あぁ。……絶対に、後悔はさせない」
「――――私……、」
葵がそう言いかけたとほぼ同時だった。

「それ以上はミーも黙って見てはいられませんー」

突然部屋に、ヴァリアーの術士が現れた。
「うおっ!! びっくりすんじゃねーか! ノックしてくれよなー」
「ミーの葵サンが洗脳されそうだったんで、失礼を承知で飛び出してきましたー」
オレは内心舌打ちしたい気分だった。流れと場の雰囲気とはいえ、あと少しで葵の心を引き寄せられそうだったのに。
いやその前に、『ミーの葵サン』って何だよ。
「ふらん……? 恐い顔してどしたの?」
「ハイハイ葵サーン。今お兄さんが、ここに葵サンを捜しに来てますー。とりあえずそのムッツリ雨変態から離れて、こっち来て下さーい」
「むっつ……雨、へん……?」
葵は名前同様長い単語が苦手らしく、しきりに首をひねっている。
ヴァリアーの術士は、無表情のままオレの腕から葵をすぽっと抜き取った。
それにしてもひどい言われようだとは思ったが、きっとコイツも葵のことが好きなんだろう。年下なりの敵意が感じられて、オレは苦笑した。
「ずいぶんな言われようだな」
「ほんとのことですからー。とにかく葵サンは返してもらいますよー」
術士に手を引かれ、葵は覚束ない足取りで歩き出す。それを見ていたら、やっぱり放っておけなくて。オレは立ち上がった。
「葵の兄貴も剣士なんだろ? 会ってみたいから、オレも一緒に行っていいか?」
途端に葵の顔が明るくなった。
「うんっ! たけしとお兄ちゃん並べて、写真撮りたい!」
……相変わらず意味不明なところはあるものの、こうしてオレたちは部屋を後にしたのだった。

*****

僕と邦枝翔、獄寺隼人と沢田綱吉が睨み合う中、突如として不可思議な声が響いた。
「はやっとぉおー!」
僕の目の前をよぎって獄寺隼人に抱きついたのは、他ならぬ葵だった。
「な……っ、おま、そ……そんな簡単に抱きつくんじゃねー!」
「はやと赤くなったー! おう、つな!」
葵は獄寺隼人から離れると、今度は沢田綱吉に敬礼してみせる。
「お……おう?」
「おう! きょーやーっ!」
ようやく僕の番になった。飛びついてきた葵を抱き寄せて、頭をなでてやる。
葵は気持ちよさそうに目を細め、僕にすりよった。
…………うん。やっぱりこうじゃなきゃね。
「きょーや、なんかうれしそう」
「そう?」
こくり、うなずいて僕を見上げる葵は、相変わらず大きな目をくりくりさせている。
……可愛い。
きっとこの後葵は、兄に抱きつこうとするだろう。でも、そうはさせない。
葵は、僕のものなんだから。
「お兄ちゃ、」
「葵、目を閉じて」
葵が動くより早く命じて。
「はうっ」
あわてて目を閉じた葵と、視線を合わせるように屈む。
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