月見草の恋

□幸運は掴もうとする者の前にしか見えない
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嵐の守護者の背にいた葵は、オレの姿を認めるとすぐさま飛び付いてきた。
「すくっ!」
オレは葵を抱き止めて、頭をなでてやる。
「う゛ぉい、何もされなかったかぁ?」
「ん」
久しぶりに会った気がする。腰に抱きついて離れまいとする様子が、また懐かしい。
オレたちがくっついている間にも、瓦礫の山と化した部屋では言い争いが続いていた。
「てめーらいきなり何しやがる!! ひとの部屋ぶっ壊しやがって……!!」
「しししっ。オレらだってエース君に屋敷半壊されたんだぜ? それに比べりゃまだマシだろ」
「はあ!? 何言ってんのかわけわかんねーよ! つーか葵を返せ!!」
「あらー? もとはと言えば、葵ちゃんを先に保護したのは私達よん? だからこうして、連れ戻しにきたんじゃない」
渦中の葵は、我関せずといった様子でオレの腰にしがみついて、頬擦りしている。
「……オレのズボンは気持ちいいかぁ?」
「すくの全部気持ちいいよ。でもここまでしか届かないんだもん」
葵の身長ではそこが限度だ。思わずオレは小さく吹き出した。
「このチビがぁ」
「むー! すくののっぽ! 足なが! さらさらへあー!」
「う゛お゛ぉい、貶してるつもりかぁ?」
そうこうしているうちに、ボンゴレの下っ端やら沢田綱吉やらが集まってきた。
「獄寺君、何が……って、ヴァリアー幹部勢揃いー!?」
沢田綱吉は相も変わらずのへっぴり腰で、オレたちを見て叫んだ。
「おい、ドカス」
ザンザスが一歩前に出て、沢田綱吉と対峙する。
「こいつは連れて帰る」
一言で身を翻すところがまたヤツらしい。
すると、さっきまで葵の側にいた嵐の守護者が、憤然と沢田綱吉に訴えた。
「10代目!! 葵をヴァリアーなんて危険な場所に置いていいんですか!? そもそも葵は、ヒバリが……!」
「あぁああの、その、ね。実は葵ちゃん、ヒバリさんがヴァリアーからさらってきちゃった子なんだ」
事情を知らなかったらしい嵐の守護者は、それを聞いて言葉を詰まらせた。
「しししっ。そーいうワケだから、葵はヴァリアーに返してもらうからな」
ベルの宣言を皮切りに、オレたちは崩壊した部屋に背を向けた。葵を取り返した以上、もうここに用はねえ。
葵はオレの腰にぶら下がって、ご機嫌な様子だ。
「すっくー。ぼっすー」
やたらと楽しそうなその様子に、オレは唇の端を持ち上げる。やはり葵は、ヴァリアーの中にいるべきなんだ。
その時。

「葵……っ!! お前はどこにいたいんだ……っ!?」

嵐の守護者が、葵の背中に叫んだ。
葵は顔だけ後ろに向けて、何故かブイサインを送る。
「また遊びにくるよ」
――それが、別れの合図だった。そして、選択の答え。
葵は確かに、オレたちを選んだ。
「おい、葵」
何やら機嫌のよさそうなザンザスが、振り返ることなく呼びかける。
「何? ぼす」
「次から外に出る時は言ってから行け。必ず帰って来い」
あのザンザスが、こんなことを言う日が来るとは思ってもみなかった。葵は目をきらきらさせて、オレから離れてボスさんの背中に抱きつく。
「ぼす! すき!」
ヤツはふっと笑って、葵の頭をがしがしなでながら言った。
「……当然だ」
オレたちは悠々とボンゴレ邸を出て、道を闊歩する。
普段なら戦闘時にしか勢揃いしない、暗殺部隊幹部の集団。それでも雰囲気が柔らかいのは、葵が帰って来たからだろう。
全員の表情が穏やかだ。
「しししっ。葵、守護者のヤツらどう思う?」
頭の後ろで腕を組み、面白そうに問うベル。振り向き、葵は首をこてんと倒す。
ちなみに葵の両腕はザンザスに巻き付いたままだ。振り払わないところからも、ボスさんが葵を気に入っていることは容易にうかがえた。
「しゅごしゃ?」
「あー。エース君……じゃねーや、雲雀恭弥とか山本武とか、獄寺隼人とか六道骸とかだよ」
顔だけベルに向けて、葵は何度かうなずいた。そして小さな唇を開く。
「きょーやはすくの次にすき。たけしはすくと同じくらいすき。むくは面白い。はやともすき。つなはつな」
「ぷっ、『つなはつな』って何だよ」
確かにそれは感想じゃねぇ。
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