月見草の恋

□数人が同じ場所に集うと自ずからそれぞれの役割がわかる
1ページ/3ページ


昨日ボスが連れてきた、ちっこい黒いジャッポネーゼ。
あのボスに抱きつくとか、まじありえねー。でもオレは、それにキレなかったボスにびっくりした。
なんというか、主人とペット……に見えなくもない。実際にボスは、滅多に使わせない自分の隣の部屋をあいつにやって、服までそろえてやってた。
まあ、着替えても黒いまんまだったけど、それでも多少は女らしく見えた。
さすがボス。戦闘力だけじゃなくてセンスまで抜群だ。
そして今。
そのジャッポネーゼは何故か一人で談話室にやってきていた。レヴィ以外の全員が集まってがやがや話している中に、つつつっと入ってきた黒猫。
談話室は一瞬静かになり、オレは彼女に話しかけた。
「葵じゃん。ボスは?」
「あいさつしとけって言われた」
「あっそう。で?」
「…………」
「…………」
「…………」
しょっぱなからわけわかんねー。
何この沈黙。
フランは興味があるんだかないんだかわかんねー顔で葵を見てっし、スク先輩は間抜けヅラだし、ルッスーリアはなんか目ぇきらきらさせてっし。
別に何の危険もないが、不用意に口を開けない。そんな妙な沈黙の後。
葵はスカートの裾をぎゅっと握り、眉をハの字に寄せて言葉を吐き出した。
「……っ邦枝葵」
………………。
…………。
……。
「う゛お゛ぉい!! だから何だぁ!!」
スクアーロが突っ込んだ。
「あっらーん、葵ちゃんっていうのね。私はルッスーリア。よろしくねん」
ルッスーリアはうれしそうに葵の頭をなでた。
「ミーはフランですー」
フランは遠巻きに様子を見ている。
「う゛お゛ぉい!! てめーはクソボスの何なんだぁ! いったいどこであいつと会って、」
「なー葵、お前家は?」
このままスク先輩に任せてたらオレの鼓膜が危険だと判断し、オレはソファから立ち上がって葵の前まで歩み寄った。
葵はスカートの裾を握る手にぎゅうっと力をこめ、拳を震わせながらオレを見る。
……あり?
こいつひょっとして、緊張してんのか?
思いついたオレは、しゃがんで背の高さを合わせるようにして、葵の髪をなでてやった。
「しししっ、オレ王子。ベルフェゴール。よろしくな」
すると、オレの口が弧を描いていることに安心したのか、葵はわずかに肩の力を抜いてうなずいた。
「おーじ。ぼすが、これからいっしょに住むから、よろしく言っとけって」
「そっか。お前家ねーの?」
こくん、縦に動く小さな頭。
「家族は?」
「お兄ちゃん」
「親は?」
「しんじゃった」
オレは、へぇ、という程度にしかとらえていなかったが、次の台詞に耳を疑った。
「二週間まえにばくはつしちゃった」
「げ……」
後ろからフランも会話に参加する。
「ずいぶんグロッキーな近況報告ですねー」
まったくだ。
こんなところにいるのだから、身寄りがないのだろうとは思っていた。とはいえ、親が爆死していて、しかもそれが二週間前だとは。
さすがの王子も予想してなかった。
オレが半ば呆然としている間にも、フランは相変わらずの口調で質問を続ける。
「そのお兄さんは、どこ行っちゃったんですかー?」
こてん、と首が横に倒された。
知らないらしい。
兄とは生き別れ、ボスにたまたま拾われた、というところか。
それにしても、だ。
「……ししっ」
あのボスが気に入ったとなると、葵はよほど強いヤツなのだろうか。
つい好奇心に負けたオレが、ナイフを数本葵に放った時だった。

ガン、ガン、ガン、ガン、ガンッ――――、

すべてのナイフが、銃弾によって弾かれた。
反射的に振り返ると、談話室の入口に、滅多に顔を出さないボスがいた。
「ぼす、」
葵の顔がほんの少し、明るくなる。
「てめーらに一言言っておく。こいつに傷一つ付けるな」
ボスは銃を仕舞うと、何事もなかったかのように踵を返した。
葵は、オレたちのことなんて忘れたかのように、ちょこちょことボスの後を追う。
追いついた彼女が腰に抱きつくと、ボスはその頭をがしがしなでてやっていた。
…………。
バタン、と閉まったドアを見ながら、オレたちはしばしお互いの顔を見合う。
「……ボスったら、ずいぶん葵ちゃんのこと気に入っちゃってるみたいねぇ」
とりあえず口火を切ったのはルッスーリアだった。
その言葉に、フランが何度かうなずく。
「あんなボス、ミーは見るの初めてですー」
「王子も」
スク先輩は、一人展開について行けずに悶々としていた。
「う゛お゛ぉい、何がどうなってんだぁ……?」
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ