勿忘草の心2

□3.秘密
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これが、いつもの恭弥くんだ。年下なのにちょっぴり偉そうで、照れ屋で、でも優しい。
「……ありがとう、恭弥くん」
《別に僕は何もしてないよ》
「それでも……ありがとう」
恭弥くんが、鼻で笑ったのがわかった。
《その人なら大丈夫だと思うけど、一応男なんだから気をつけなよ》
「はーい」
《……じゃあ、ね》
「……うん! またね」
通話の切れた携帯電話を握りしめて、私は思う。私は本当に、彼らに支えられてばかりだと。
「……ディーノさん、ありがとうございました」
「いや……オレも助かったぜ。さすが恭弥の鎮静剤だな」
私はゆるく微笑んで、首を横に振る。
「恭弥くんが、私の鎮静剤なんです」
「恭弥が?」
私はうなずいた。
私に居場所をくれて、私が迷う時は答えをくれて、恋愛も上手くできない私をいつも支えてくれる。私にとっては、恭弥くんの方が鎮静剤みたいな存在だ。
と、そこにベルくんが割って入る。
「なぁ七花。気を持たせるとか、会えるとうれしかったとか、連絡先交換するとか……エース君と何か、あったわけ……?」
私は何度か瞬きをした。
「エース君?」

――「雲雀恭弥のことだよ」

気付くと私のすぐ後ろに、マーモンちゃんがふよふよと浮いていた。私はそっと手を伸ばして、マーモンちゃんを抱きとめる。
「恭弥くん、ヴァリアーではエース君って呼ばれてるんだね」
「ベルがそう呼んでるだけだけどね」
マーモンちゃんは特に抵抗もせずに、私の腕におさまってくれている。相変わらず、かわいい。
「ちょ……マーモン、邪魔すんなよな。王子、七花と大事な話してんだからさ」
ベルくんが唇を尖らせた。
大事な話とは、何のことだろう。私が小首をかしげると、マーモンちゃんが面白そうに唇の端を持ち上げた。
「ベルは雲雀恭弥に、ヤキモチ妬いてるんだよ」
「ベルくんが、恭弥くんに? どうして?」
「……さぁね。これ以上言うと、ベルに追い回されるから有料だよ」
私は話についていけなくて、一人置いてけぼりをくらっていた。そんな私に、ディーノさんがややこわばった顔で問いかける。
「七花……もしかして、恭弥に……告白、されたのか……?」
…………。
……。
ぼんっ!
「……っ!」
私の頬は瞬時に真っ赤になった。
「こ、こここ告白というかあの、その、そんなようなえっと……! と、とりあえず私は喉がかわいたので、ろま……ロマーリオさんに会いに行ってきます!!」
恥ずかしさに耐えきれなくなった私は、くるりと踵を返し、全力疾走でダイニングへと向かったのだった。

*****

残されたオレとベルフェゴール、マーモンの間には、微妙な空気が流れていた。
三人とも驚きを隠せずにいるのは同じだが、誰も何も言わない。不思議というよりは、不穏な空気だった。
そんな中、オレはまず衝撃を受けていた。まさか恭弥も、七花のことが好きだったなんて。
想像すらしていなかった。
というか、あの恭弥が人を好きになること自体、今でも信じられない。だが、あの七花の動揺ぶりを見る限り、事実なんだろう。しかし、相手がオレと同じだなんて、どんな嫌味な偶然だ。
ベルフェゴールも七花に好意を抱いていたのだろう。恭弥の行動力に驚いてか、珍しく口を開けてぽかんとしている。
どうやらオレの恋敵は、スクアーロとシャマルだけではなかったらしい。
唯一マーモンだけが面白そうにオレたちの顔を見比べているが、何やら釈然としない。
そこでオレは、ベルフェゴールにある提案を持ちかけた。
「……ベルフェゴール、オレに提案がある。聞くだけ聞いてくれねーか?」
「……聞くだけなら聞いてやってもいーよ」
そこでオレは、自分の知る全てを話した。シャマルが七花に強い想いを寄せていること、スクアーロが雨戦で負けた後にあったこと。
話し終わると、ベルフェゴールの口元がひきつった。
「……何あのカス鮫。七花に看病されただけじゃ飽き足らず、キスまでしたっての?」
くるりとオレに背を向け、走り出そうとするベルフェゴールの腕を掴んで、なんとか暴走を阻止する。屋敷の中で暴れられたら、七花にマフィアのことがバレてしまうかもしれない。
案の定ベルフェゴールは何も考えていなかったようで、みなぎる殺気をおさめようともしない。
「離せよ跳ね馬。オレ今から、あのカス鮫サボテンにしに行くんだからさ」
「ちょっと待てって。七花にはマフィアの存在を知られない、っていう約束、覚えてんだろうな?」
「王子そんなの知らねーし」
ダメだ。今のこいつの頭には、スクアーロをぶちのめすことしかない。
オレはベルフェゴールの肩に手を置いた。
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