勿忘草の心2

□3.秘密
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「あんなに怒るほど大切なものだなんて、知らなかった。知らなかったけど、七花を傷つけた。それが悔しくて、思い返せば思い返すほど、スク先輩に美味しいとこ持ってかれた気がして……」
ベルくんの声が、だんだん小さくなっていく。
「ほんとに……ごめん。ごめんな」
「それはもう仲直りしたでしょ? 無事にスっくんが取り戻してくれたし、ベルくんも謝ってくれたし、私はもう気にしてな、」
「そうじゃなくて」
私の言葉を遮ったベルくんは、唇を噛みしめてうつむく。
「……なんで七花、スク先輩とだけそんなに仲良いわけ? やっぱりあのペンダント取り返してもらったってのが……原因?」
「? まぁ……それもきっかけ、かなぁ」
前髪で表情はわからないけれど、ベルくんは寂しげだった。それに、いやにスっくんと私の関係にこだわる。もしや、ベルくんまで、私にスっくんを取られたと思っているのだろうか。
どれだけ人気者なんだ、スっくん。
いやしかし、改めて聞かれると、どうして私はスっくんと関わる機会が多いのだろう。
しばらく考えてから、不意に思い出した。きっかけは確かにあったのだ。
「そう! 夢でね、今より大人のスっくんに、私がスっくんの『10年後の恋人だ』って言われたの」
ガタガタッ、とベルくんが姿勢を崩した。ベッドから落ちた彼をあわてて抱き起こすと、低い声が放たれる。
「スク先輩が、10年後の七花の、恋人……?」
「あ、うん……まぁ冗談だとは思うけど、スっくんがその話を真に受けちゃって……」
ベルくんは肩を震わせたかと思うと、がしっと私の肩に手を置いた。
「安心しろよ七花! んな未来、王子がぜってー阻止してやっから!」
「う……うん?」
「スク先輩のこと『スっくん』なんて呼び始めたのも、ついにストーカー発言されたからなんだろ?」
なんと、そこまで知っているとは思っていなかった。
何故ここに私がいるとわかったのか、という疑問も含め、本当にヴァリアーの人々には謎が多い。
私は何気なく尋ねた。
「なんでその経緯まで知ってるの?」
ベルくんいわく、
「マーモンに頼んだ」
…………。
……マーモンちゃんって、赤ちゃんなのに何者なんだろう。
ふと思ったが、取り立てて話題にすることでもない。私はむしろ、決意を秘めたかのようなベルくんの様子の方が不思議だった。
ベルくんは何やら力強い笑みを口元に浮かべ、私の肩をぽんぽんと叩いてくれる。
「見てろよ七花! 王子、あのカス鮫より七花と仲良くなってやるから。七花の恋人の座も、ぜってー守ってやっからな!」
「え、えっと……うん、ありがとう」
あれ、ベルくんは私と仲良くしたいのかな。それにカス鮫って……。
……スっくんとベルくんって、仲が良いのか悪いのかいまいちわからない。
そんな疑念が浮かび上がった時、突如廊下から騒がしい声が聞こえてきた。
「七花ー! おーい、七花ーっ!」
ディーノさんの声だ。それもかなり焦っている。
私はベルくんに断ってから、部屋のドアを開けて顔をのぞかせた。
「ディーノさん? 私ならここに……」
「あぁあああ七花! よかった、ちょっと出てくれ!」
何やら疲れた様子のディーノさんが私の前に突き出したのは、黒い携帯電話だった。
「え……私が出るんですか? 相手は……」
「いいから、とにかく出てくれ! 頼む!!」
あまりにも必死なディーノさんの様子に、私は首をかしげつつ携帯電話を受け取った。
「はい、代わりました」
その瞬間だった。

《――七花? 七花なの?》

懐かしい声に、私の頬は紅潮した。思わず笑顔がこぼれる。
「恭弥くん!! 夏休みに入ってから初めて声聞いたよ! 元気にしてる!?」
私の元気すぎる反応とは対照的に、恭弥くんはやっぱりいつもの恭弥くんだった。
《君、いつの間にイタリア行きなんて決めてたの》
「一週間くらい前にね、ディーノさんに誘われたの!」
《……で、いつまでそっちにいるの》
「一週間の予定だよ」
恭弥くんは淡々と話しているけれど、私の気のせいでなければ――どことなく、不機嫌だった。
「……恭弥くん、私に何か用事があったの?」
《………………別に》
「イタリア行くこと、伝えておいた方がよかった?」
《……そういうことじゃないよ》
「じゃあ、どうしてディーノさんの携帯借りてまで、私に連絡したの?」
しばらく恭弥くんは何も言わなかった。ディーノさんを見ると疲れきっていて、私の後ろからはベルくんが顔をのぞかせている。
「何なに、エース君から?」
「あぁ」
ベルくんは私とディーノさんを何度か見て、最終的にディーノさんに問いかける。
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