金木犀の唄

□山吹色
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やべぇ緊張してきた。
昼休みも終わってこれから5時間目。亜希子の授業だ。
「獄寺君、そろそろ音楽室に移動しようよ」
「は、はははいっ、10代目! いつ何時誰が襲ってこようと、この特製ボムで返り討ちにしてやりますよ!」
「……いや、それはいいんだけどね。そもそも音楽室に危険とかないと思うけどね」
10代目を命に代えても守る覚悟は、もちろん今でも変わらない。ただ、どうにも注意散漫なのは否めない。
原因はわかってる。もうすぐ亜希子に会えるからだ。初めて見る“教師”としての亜希子の顔は、どんななんだろう。
想像しただけで心拍数が上がっていく。オレは歌なんて歌わねーけど、亜希子をがっかりさせるのだけは嫌だ。そんな格好悪いマネするくらいなら、それこそ果てた方がマシだろう。
情けない話だが、オレは今まで強くなることしか考えてこなかった。だから、こんなにも誰かのことで頭がいっぱいになるとか、誰かに嫌われたくないとか、感じるのは初めてなのだ。
「亜希子先生って、」
「亜希子がどうかしたんですか!?」
「い、いや、ただ親しみやすい先生だよねって言いたかっただけなんだけど……」
「そ、そっスね」
……ダメだ。完全に頭がイカレてやがる。
もういっそのことサボろうかとも思うが、亜希子の笑顔と言葉が頭の中をぐるぐる回る。

『あ。5時間目は私の授業だから、出てね! 待ってるからー!』

惚れた女に“待ってる”なんて言われて行かない男は、男じゃねぇ。オレは覚悟を決めた。
あれ、ちょっと待て。その前にかなり重要なことを忘れている気が……。
「……!!」
思い出したオレは、頭から湯気が出るんじゃないかというほど真っ赤になった。
「ごご、獄寺君!? いきなりどうしたの、そんな赤くなって……」
オレとしたことが、10代目に釈明する余裕すらないほど狼狽していた。
だってよく考えたら、オレから取り上げたあの煙草を……亜希子はそのままくわえてたわけで…………。

ボフンっ。

「獄寺君!? なんか煙出てるから煙!!」
間接キスごときでここまで動揺するなんて、オレもまだまだだな。









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60億分の1の確率で出逢った、キミとオレたち。
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