勿忘草の心3

□5.哀憫
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私だけは絶対に、誰かの想いを否定しないと思っていたのに。
「ごめん! 隼人くん、ごめん……!」
隼人くんは少し笑った。
《じゃあこれでチャラ……ってわけにはいかねーから、今度なんか奢らせろ》
「私の方が、ひどいこと言ったよ! 隼人くんにされたことより、ひどいことしたよ!」
《おま、…………相変わらずどっかズレてんな》
隼人くんの低い笑い声は私を咎めてなんかいなくて、むしろ包み込むような優しさに満ちていた。
《わーったよ。じゃあ今のでチャラな》
「むしろ私が何か奢るよ…………隼人くんと違ってお金持ちじゃないから、庶民の味になっちゃうけど……」
《チャラっつったろーが、馬鹿七花》

――こんなにも優しい隼人くんに。
こんなにも優しいみんなに。
私は何ができるのだろう。
それを探すことこそ……探せることこそ、“幸せ”なのかもしれない。

「っ馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ!」
《あん?》
「隼人くんの馬鹿ー!」
《お前は小学生か!》
こんなやり取りができることもまた、幸せなのだろう。
そう思った私の心は、ほんのり温かくなっていたのだった。


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