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ー翳の回廊ー
見つけてしまいましたね…?
※注意書※
表に置けないダークな短文、または大人向けテイストな短文を衝動的に載せています。
暗い話や過激な表現が苦手な方、うっかり迷い込んでしまった貴方は速やかに宴の広間までお戻り下さい。
◆獣性(孫政)
「政宗、俺と賭けをしないか?」
孫市がそう持ち掛けたのは、夕日の照りつける鳥撃ちの帰り道。
今日の戦績は五分だった。
「引き分けのままじゃすっきりしねぇだろ?最後にもう一勝負といこうぜ」
「ふん、良かろう!このままでは儂も得心が行かぬ所であったわ!」
この提案に、政宗はすぐ不敵な笑みを返した。
「流石は政宗だ♪じゃあこんなのはどうだ?お互いに指名した獲物を撃ち合い、先に外した方の負け。んで、負けた方は相手の命令を一つだけ聞く」
「ほう、面白い。じゃが良いのか孫市?後で泣き言を言っても撤回は認めぬぞ?」
「自信満々だねぇ…?だが俺もお家芸の鉄砲で負ける訳にはいかないな」
「馬鹿め、貴様など儂の敵ではないわ!」
「へぇ。その言葉、忘れんなよ?」
意気込む政宗に分からないよう、孫市は愛銃を握り締めながら密かにほくそ笑んだ。
「孫市、あの小鳥を撃て!」
「政宗、あの木の実を落とせるか?」
「孫市、あそこに咲いている薊じゃ!」
「政宗、あの蛙を撃てるか?」
昏くなるまで勝負は続いた。
が、実力は拮抗し、一向に決着は着かない。
「埒が空かぬな」
「全くだ、もうすぐ日が沈むぜ。なあ政宗、次で仕舞いにしないか?」
「何!?まだ勝負は着いておらぬぞ!…が、そうじゃな。これではいつまで経っても屋敷に戻れぬ」
「じゃ、そういう事で。俺は何を撃てばいい?」
孫市が問い掛けると、政宗は暫し思案した後ある方向を指差した。
「ふむ……あれじゃ!」
政宗が示したその先には、一匹の青い蜻蛉が悠然と空を飛んでいた。
しかし、その青く輝く蜻蛉の体は糸のように細い。
「おいおい、酷ぇな。この暗さで、しかもあんな細っこいのを撃ち落とせってのか」
「泣き言は言わぬのではなかったか?出来ぬのなら貴様の負けじゃ、その銃を貰うぞ!」
政宗が意地の悪い子供のような目で孫市を見る。
が、それでも孫市は負けじと銃を構えた。
「はっ!ここで退いたら雑賀孫市の名が廃るってもんだ。政宗…よく見てな!」
風が吹いていた。
孫市は冷静に照準を合わせながら、機会を待つ。
そして……結果は、、
ぱあん!!
乾いた破裂音と共に、蜻蛉は落ちた。
片翅を撃ち抜かれた蜻蛉は、焦げた臭いをさせながら狂ったように地面でもがく。
「体を撃たなくても、翅がなければもう飛べない」
その瞬間孫市が浮かべた凄絶な笑みに、何故か政宗は背筋が凍る心地がした。
「政宗、俺の勝ちだ」
「馬鹿め、まだ終わってはおらぬ!今度は儂の番じゃ!」
寒気を消し去るように、政宗はいつもの虚勢を張る。
「ん?そうだったか?」
「惚けるでないわ!孫市、さっさと標的を定めよ!!必ず撃ち抜いてくれる!」
「さて、お前に撃てるかな」
「勿体ぶるでない!儂が的を外す事などないわ!!」
「賭けるかい?じゃあ…此処を撃ちな」
静かな口調で、孫市は告げた。
だが、孫市が示した先を見て、政宗は思わず言葉を失う。
その指先が指していたのは…孫市自身の胸だった。
「…貴様、ふざけておるのか??」
「いいや?」
「馬鹿め、これが冗談でなくて何なのじゃ!!」
「撃たないのか?」
「当たり前じゃ!何故儂が貴様を撃たねばならぬのじゃ!」
「何故…?理由ならあるだろ」
孫市の言葉と共に、不意に政宗の視界が暗くなる。
「これから俺はお前を犯す」
気がつくと政宗は、孫市の腕の中に捕らわれていた。
「さあ戦利品を貰おうか」
「孫市…?っ何をする!?」
首筋に舌を這わされる感覚に、政宗は肩を震わせる。
「いっ…厭じゃ!」
「その反応…初々しいな」
「離せ無礼者!!忘れたか、儂の銃にはまだ弾が残っておる!!撃たれたくなくば退け!!」
「…やってみな」
「な…に」
「撃てるもんなら、な」
拘束を僅かに緩めると、孫市は政宗の耳元で残酷に囁く。
「お前に俺が撃てるのか?父親を、弟を手に掛けた事を未だに後悔してるお前に」
「孫…っ」
「撃てよ。じゃなきゃ続けるぜ?」
「や…厭…」
「選びな政宗。俺を殺すか、抱かれるか」
「儂は…儂は…っ!」
政宗の隻眼から涙が伝う。
それと同時に、華奢なその手から黒い銃身が零れ落ちた。
「政宗…俺はお前の弱さが好きだぜ。安心しな、これからは俺が守って遣るよ」
低い男の声と共に、政宗の体は引き倒される。
そんな二人の傍らで、地に落ちた蜻蛉はひっそりと命を終えていた…
2013/07/28(Sun) 13:59
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