ー翳の回廊ー

見つけてしまいましたね…?

※注意書※
表に置けないダークな短文、または大人向けテイストな短文を衝動的に載せています。
暗い話や過激な表現が苦手な方、うっかり迷い込んでしまった貴方は速やかに宴の広間までお戻り下さい。
◆食物連鎖(動物パロ幸政) 

「っ…しまった!」

一瞬の油断だった。

好物の葛の新芽に夢中になり、捕食者の気配に気づくのが遅れた。

そして今、政宗は赤い狼の足に踏みつけられている。

「これは美味しそうな兎ですね、久々のご馳走だ」

前足で押さえられ、身動き出来ない政宗の上で狼はそう一人語散る。

捕らわれた政宗にしたら、まるで生きた心地がしない。

「肌が白くて柔らかそうだ。それに…おや?貴方、白子ですか」

政宗の赤い瞳を見て、狼は軽く目を見開く。

自然界では生まれつき色素の欠乏している白子は、敵に捕捉されやすい為生存率は極めて低い。

「白子の成体とは珍しい。今日まで無事とは、貴方余程運がお強いのですね」

「馬鹿め!運などではない、儂自身が強い故じゃ!」

狼が驚いたように言うと、小さな兎は組み敷かれたままふんぞり返るように言い放った。

「面白い方だ。しかし、今のこの状況はどうです?私にはあっさり捕まってしまいましたが」

「うっ…」

狼の正論に、政宗は悔しそうに歯噛みする。

「確かに…今回ばかりは儂の負けじゃ。この上は、さっさと儂を喰らうが良い!」

「随分と強気な獲物も居たものだ…少し、気が変わりました。私は幸村、特別に貴方を我が巣穴へ御招待しますよ」

「何…わっ!?」

後ろから首をくわえられ、政宗はそのまま幸村の巣穴へと連れて行かれた。


「政宗殿…でしたか?すみません、先程はお食事の邪魔をしてしまいましたね。どうぞ召し上がって下さい」

そう言って、幸村は政宗の前に蒲公英の花を差し出した。

「何のつもりじゃ!」

明らかに警戒する政宗に、幸村は笑った。

「そう怖がらないで下さい、今すぐ取って食べたりはしませんから。ああ…しかし、美味そうだ」

政宗の首筋に鼻を寄せて、幸村はひくひくと匂いを嗅ぐ。

「っ…なれば早よう喰らえ!それともなぶり殺す気か?」

幸村のその行動に、政宗は青ざめる。

「そう慌てないで下さい。貴方は私にとって、初めてのお客様なのです」

「客?貴様にすれば儂は餌であろう!」

「そうなのですが…何というかその。もう少しお話がしたくて」

「は?」

「貴方を食べてしまうのは簡単なのですが…それをしてしまうのは、惜しい気がするのです」

「意味が分からぬ…喰わぬのなら、帰るぞ」

「それはいけません、貴方は私の獲物ですから」

「ではどうせよと言うのじゃ!」

「私は政宗殿を食べたい。でも…そうしたら貴方は居なくなってしまう」

「当たり前じゃ!!」

不毛な遣り取りに、次第に政宗は苛立って来る。

「そうだ、指一本だけなら…」

「断るっ!痛いのは嫌いじゃ!!どうせなら一思いに殺せ!!」

「それは、嫌です」

政宗がこの押し問答に疲れ果てた頃、幸村は再び政宗を床に押し倒した。

「…何じゃ、やっぱり喰らうのか」

「はい、やはり少しだけ味見をさせて下さい」

「味…見?む、無理じゃ!!指を一本一本喰われてゆくなど、儂は御免じゃぞ!!」

「ふふ、大丈夫ですよ…痛いことはしませんから」

「え…ふあっ!?」

不意に耳を舐められて、政宗は飛び上がる。

「な、何を!」

「可愛らしいですね、やはり兎は耳が弱点ですか?」

「うるさい、触るな!」

「仕方ありませんね…では、此方から」

「ちょ……あ…んっ!!」

胸の飾りを悪戯された政宗が体を波打たせると、幸村は愉しそうに笑った。

「当分は、こうして少しずつ頂きたいと思います。その方が私も、退屈せずに済みそうですからね」

「や…やっぱり一思いに喰ってくれ!!」

「駄目です。…今は、まだ」

「ひ…ぁっ…!」

「政宗殿…いつか私は、本能に負けて貴方を喰らうでしょう。でも…きっとその時、貴方の血肉は魂が溶ける程に美味なのでしょうね」

声を潜めると、幸村は白い下腹に唇を落とす。


孤独な狼は、兎に恋をした。

しかし狼に獣の本能がある限り、この恋は悲しみしか生まない。

ならばいっそ、骨まで喰らうまで。

2013/05/11(Sat) 19:57

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