無双的駄文

□※代償/幸政
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あれ程逢いたかった恋人、幸村が目の前に居る。

だが、幸村と向かい合う政宗の気持ちは暗い。

心の中は後悔で一杯だった。

政務が片付いて、本当は直ぐにでも逢いたいと思った。

しかし、聞けば武田は先の戦が終わったばかりでまだ引き上げの最中だという。

ならば少し待ってから、文で幸村を呼び寄せよう。

ーそう考えていた矢先だった。

まさかそれよりも早く、幸村の方から逢いに来てくれるなんて。

嬉しい反面申し訳ない。

恐らく幸村は、行軍の途中で抜け出して来てくれたのだ。

それを…。

「幸村…」

膝を突き合わせても、言葉が上手く出て来ない。

幸村は先程から窺い知れぬ表情で押し黙ったままだ。

政宗は縋るような目で幸村を見る。

「幸村…っ済まぬ!」

泣き出しそうな表情で詫びられ、幸村は初めて微笑んだ。

「政宗殿…」

(可愛らしい方だ…)

心の底からそう思う。

無論政宗の浮気を目の当たりにして、怒りが無かったと言えば嘘になる。

むしろ幸村は、あの瞬間小姓を斬り殺したいとさえ思った。

が、こうして素直に詫びられると、あっさりと怒りは去り愛しさだけがこみ上げる。

しかし…


ふと、幸村の目が一点に留められた。

政宗の鎖骨に残された、赤い情痕。

白磁の肌に浮かぶそれが、幸村には酷く不粋に映った。

「政宗殿、これは…?」

「は?」

幸村の声音がいつもと違う事に気づき、政宗は相手の目線を追う。

やがて政宗は、青い顔になった。

「あ…」

先程、小姓が悪戯に吸いついた跡。

「その…あ奴はこの手の戯れが好きでな、別に深い意味は…」

普段見せた事の無い迫力を感じさせる幸村に、政宗は歯切れの悪い言い訳をする。

が、その言い訳が逆効果だった。

「政宗殿…あの御小姓とは斯様に親しい間柄なのですか?」

「う…」

政宗は思わず言葉に詰まる。

実を言えば、彼の小姓とは幸村と恋人になる以前には度々関係を持っていた。

無論、抱くのが専門で、幸村が相手の時のように政宗が下になる事は無かったし、幸村と恋仲になってからはまだ一度も寝ていないのだが。

「…分かりました」

答えに詰まる政宗の様子に、幸村はおおよその事を察した。

「幸村…」

政宗は顔を伏せた。

(嫌われてしまっただろうか)

そんな思いが胸をよぎる。


政宗の不安そうな瞳に、幸村は優しく告げる。

「そんな顔なさらないで下さい、責めている訳では無いのですよ?ただ…」

大きな手で政宗の顔を包み込むと、幸村は低く囁いた。


「少し、嫉妬してしまいました」
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