無双的駄文
□※織女惜別/兼政
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「…そうじゃな」
政宗は小さく呟くと、空から視線を戻して兼続を見つめた。
「…兼続」
その眼差しは切な気で熱っぽく、名を呼ぶ声はかつてない程掠れていた。
「早う続きを……続きをしてくれ…」
政宗は花のような唇を薄く開くと、兼続に口づけをねだる。
それは二人が人目を忍んで会う仲になってから初めての事だった。
更に政宗は、この距離がもどかしいとばかりに兼続の首を引き寄せようとする。
が、しかし
その手が、虚しく空を切る。
同じように抱き返してくれる事を期待していた政宗は、閉じ掛けていた瞼を開けて見上げる。
「か…ー」
そして、政宗の動きが止まった。
氷のような瞳ー。
初めて逢った頃のような、冷たい眼差しで兼続は政宗を見下ろしていた。
正確には、その凍るような瞳の奥にもう一つ燃え盛るような感情が渦巻いていたのだが、当の政宗は気づかなかった。
「な…に…!?」
無言で睨みつけられ狼狽する政宗の手を、突如兼続が掴んだ。
「痛っ」
そのままぎりぎりと締め上げられ、政宗の顔が苦痛に歪む。
先程迄優しかった恋人が突如豹変してしまった事に、政宗は驚きを隠せない。
「政宗よ…今日は随分と積極的なのだな」
あからさまに冷めた口調で、兼続は政宗の顎に手を掛ける。
何か怒らせる切欠があっただろうかと政宗は必死に頭を巡らすが、心当たりは無かった。
「兼続、突然どうしたというのじゃ!!」
「それは此方が訊きたい、お前は何を急いている?」
「っ!」
極度の緊張からか、政宗の喉がひくりと鳴る。
顔面から血の気が失せ、握った拳が微かに震える。
「別…に…。たまたま今日はそんな気分になっただけじゃ」
そんな動揺を悟られまいと、政宗が取り繕おうとした瞬間ー。
パンッ!
闇夜を切り裂くように、辺りに乾いた音が響いた。
同時に走った頬の痛みに、政宗は一瞬何が起こったのか分からなかった。
が、頬を張られたのだと気づくと、直ぐ我に返りて兼続を睨む。
しかし、逆に凄まじい憎悪を宿した瞳に遭って言葉を失った。
未だかつて…犬猿の仲と言われた頃さえ、兼続にこんな瞳で見られた事は無い。
足に迄震えが来そうな憤怒の相。
ぱくぱくと口を開け、金縛りのように動けなくなる政宗に、兼続は漸く言葉を発した。
「政宗、お前は…私に言う事があるのだろう」