無双的駄文

□笄/兼政
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「と、まあ…このような事があったのだ」

何処か夢でもを見るように、兼続は語った。

事実よりも少し脚色されていたようだが、概ね政宗の記憶と内容は合っている。

ただし、話の端々の…

「たおやかな娘であった」

とか。

「恥じらう微笑みが花のようだった」

という台詞の数々を除いては。

そして極めつけにー。

「娘が立ち去った折、その場に残されていたのがこの笄なのだ」

再び、手の中の笄を見せられる。

「…」

政宗は激しい眩暈を覚えた。

「どうした山犬」

黙り込んでいた政宗を流石に不審に思ったのか、兼続が顔を寄せて来る。

「なっ、何でも無いわ馬鹿め!!」

慌てて取り繕う政宗を、怪訝そうに見ながらも、兼続は更に言葉を紡ぐ。

「む…で、山犬。協力してくれるのであろうな」

「…は?」

政宗は、思わず間抜けな声を出す。

「何を惚けている。笄を落とした娘を見付けて欲しいという話だ」

「う!」

そうだった。

今、大変な危機が目の前にある。

この災難をどう切り抜けるべきか。

政宗は懸命に頭を巡らせる。

どう誤魔化すか。

どう自分を探すのを止めさせるか。

考えた末に出した結論。

諦めて貰うのが、一番手っ取り早い。


意を決して、政宗は説得を始めた。

「…兼続」

「ん?」

「良いか、よく聞け」

「ああ、」

「良く考えよ」

「うむ?」

「城下は広い、そこから女一人探し出すのは至難の業だ」

「そうだな」

「まして手掛かりはその笄一本のみ」

「如何にも」

「貴様は素性どころか女の名前も知らぬ」

「それがどうした」

「探すだけ無駄じゃ」

「何!?」

切り捨てるように言われた兼続は鼻白むが、政宗は続ける。

「城下に居たからといって土地の者なのかも分からん、第一貴様……顔は見たのであろうな」

政宗は遂に確信に触れた。

政宗自身、一番知りたかった事。

「女は単衣を被っていたのであろう、顔は、はっきりと見たのか」

じっと、兼続を見据える。

政宗の掌に、じわりと汗が滲む。

暫し間を置いて、返ってきた答えは…。

「いや、それは…一瞬ちらりと見ただけだ…まして距離も離れていてはな」

その言葉に、政宗の肩の力が抜ける。


どうやら露見する気遣いは無いらしい。

そうと決まれば、後は兼続を追い払うのみ。

「決まりじゃな」

政宗は勝ち誇ったように笑みを浮かべる。

「貴様も忙しい身であろう、見つかりもせぬ女に割く時間など…」

そう、結論付けようとした時ー。
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