無双的駄文

□笄/兼政
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叫び声と同時に、何かが光った。

その直後、馬がどうと横倒しになる。

一体何が起こったのか。

伏せていた政宗の眼前に、カサリと落ちた一枚の紙。

「これは…護符??」

嫌な予感がした。


「怪我は無いか、娘御」

朗々と響いた、凛とした声。

この声の主を、政宗は知っている。

反射的に、背を向けた。

「怖い思いをさせてしまったな、大丈夫か?」

少し困ったような、それでいて優しげな男の声。

政宗が知っているものとは随分違うが…間違い無い。

(兼続ー!!)

己の今の姿を思い出し、政宗は一人頭を抱えた。

薄い被衣に若々しい桜重ねの着物。

誰が見ても、嫁入り前の生娘だ。

町人に化けても男の格好では見破られる畏れがある、と選んだ女姿。

その扮装を選んだ事を、政宗は今心の底から後悔していた。

「どうした、足でも捻ったのか」

反応の無い相手を心配し、兼続が近付いて来る。

(…終わりじゃ!)

政宗が覚悟を決めた時だったー。

もぞもぞと、体の下が動いた。

「あ、」

すっかり忘れていた。

あれからずっと下敷きのままだった少年が、政宗の下から自力で這い出したのだ。

「うんしょ、うんしょ…あー重たかった!」


呆然とする政宗の前で少年は立ち上がり、ぶつぶつ言いながら服の埃を払う。

その様子は元気そのものだった。

が。

よく見ると子供の膝からは、うっすらと血が滲んでいた。

「おぃ…」

体を起こし、怪我を見てやろうとした政宗だが。

兼続がいた事を思い出し、はっと口を噤んだ。

視線に気付いたのか、兼続は娘より先に少年に歩み寄る。

「見せてみろ」

手拭いで少年の膝を丁寧に拭うと、兼続は軟膏を取り出して塗って遣る。

子供は一瞬痛そうな顔をしたが、直ぐに唇を結んで耐える。

「お兄ちゃんありがとう」

薬を塗り終わると同時に、少年の顔は笑顔に変わった。

兼続も微笑し、我慢強いと褒めて遣る。

それを見届けると政宗も安堵し、逃走する途中だった事を思い出す。

(今の内に…)

兼続に気取られぬよう少しずつ後ずさる政宗だったが。

「あっ、お姉ちゃん!」

後ろから呼び止める子供の声。

本来ならここで「お姉ちゃんではないわ馬鹿め!!」と怒鳴りたい所だがー。

それをすれば、兼続に露見してしまう。

政宗は衝動をこらえ、考えた末に、被衣の左側だけを僅かに傾げ、少年に淡く微笑む。

それからすっと踵を返し、角を曲がると一目散に逃げ出した。


途中誰かに呼ばれたような気がしたが、政宗は振り返らなかった。
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