無双的駄文

□※天衣無縫の雲と竜/慶政?
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暖かい昼下がりの事…慶次は日当たりの良い屋敷縁側で、ごろりと横になっていた。

目を閉じて暫く風に身を任せていると、不意に玄関口の方から人の気配がした。

「おう、こっちへ廻んな」

いつものように兼続が訪ねて来たのかと思い、慶次は気軽に庭へと招き入れた。

が、

「何じゃ、寝ておったのか?」

そこに居たのは、若草色の小袖を纏った青年武将、伊達政宗だった。

それも、共の者一人つけては居ない。

秀吉の支配の下大名同士の争いは事実上禁じられているものの、いつ敵になるかも分からない上杉領に一人で乗り込んで来たようだ。

「おお政宗かい!久しぶりだねぇ、元気だったかい」

不遜な態度で腕組みしている政宗を、慶次は床に頬杖を付いたまま見上げた。

「当たり前じゃ、儂は人一倍健康には気を遣っておるのだからな!」

「偉いねぇ、ちゃんと夜も早く寝てるのかい?」

「Σ子供扱いするでないわ馬鹿め!!」

すっかり青年と呼ばれる年齢になっても変わらない扱いに、政宗は口を尖らせる。

慶次としては、そんな政宗が可愛くて、ついからかいたくなってしまうのだが。

「悪かった悪かった。それで、今日は一人でお使いかい?」


「貴様少しも反省しておらぬではないか!!」

ぽんぽんとまくしたてるこの生意気な口が、慶次は嫌いではない。

「はっはっは!」

豪快に笑うと、慶次は政宗の栗毛をくしゃくしゃにした。

「っ…軽々しく触れるでないわ!!」

気位の高い子犬が、怒気に顔を赤くする。

「こんな無礼が許されるのは今のうちぞ!慶次、今日という今日という今日は色よい返事を聞かせてもらう!!」

その話し振りで、直ぐにぴんと来た。

「何だい、また仕官の話しかい」

「無論!!その為だけに遠路遙々迎えに来たのじゃ!」

「はぁ〜、お前さんも懲りない質だねぇ」

「馬鹿め!良き将を口説くに懲りぬも懲りないもないわ!!」

感心するように言った慶次は、ふと政宗の足元に目を遣った。

陸奥からここまでは距離がある。

政宗の草鞋は泥だらけで、所々擦り切れていた。

「まさか、歩いて来たのかい?」

「途中までは馬じゃ。しかし上杉の領内で騎乗していては目立つ故、供と一緒に国境前の宿に置いて来たわ」

「なるほど考えたねぇ…」

高飛車な政宗がそうまでして自分に会いに来たのかと思うと、慶次も決して悪い気はしない。

そもそも慶次は、政宗の動向は普段から何かと気に掛けているのだ。

「政宗、そんなに俺に会いたかったのかい?」

「そう、申しておるではないか!」

「ふーん?」

いつもとは少し違った笑顔で、思案するように政宗を見下ろす慶次。

当の政宗はというと、虎の気紛れによって降りかかる災いにまだ気づいていなかった。
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