無双的駄文

□山犬子犬/兼→政←幸
1ページ/2ページ

「幸村、折り入って話がある」

「何でしょう、兼続殿」

「山犬は、何故いつになっても私に懐かんのだ」

「はぁ…」

「お前はあの山犬と親しいのでは無かったか」

「ええ、まあ//…私も政宗様を慕っておりますし」

「そんな事は聞いていない」

「…兼続殿」

「あの山犬は、お前が話し掛けると瞳を輝かせて話す癖に、私と目が会うとゲジゲジでも見るかのように…」

「それは…(仕方無いでしょう)」

幸村は苦笑する。

「何だ」

「いえ…ただその」

「ん?」

「まずは山犬という呼び名を改められては如何でしょう」

「山犬を山犬と呼んで何が問題だ」

「問題大ありですよ!」

幸村は声を張り上げる。

「山犬などと呼ばれたら、誰だって怒るに決まってます。第一…」

「だいいち?」

「気紛れで気位の高い政宗殿は…犬というより猫ではありませんか!!」

「ゆ、幸村」

幸村の迫力に、流石の兼続も怯む。

「政宗殿は絶対に猫です」

しかし、負けては居られない。

友が相手でも己の主張を通すのが武士。

「あいつは山犬だ!!少しからかうと直ぐにきゃんきゃん吠える犬だ!!」

「猫です」

「犬だ」

「子猫です!」

「子犬だ!」


下らない小競り合いが頂点に差し掛かった時ー。

「さっきから猫だ犬だと五月蝿いわ馬鹿め!!」

背後から怒号が飛んだ。

二人が振り返ると、其処には不機嫌を露わにした政宗が、仁王立ちしていた。

「これは政宗殿、大変失礼致しました」

今の話を聞かれていただろうかと少し焦りながらも、幸村は直ぐに頭を下げる。

そんな幸村に、政宗は呆れ顔で溜め息を吐く。

「庭先で騒ぐなどお主らしくも無い…犬でも猫でも飼いたい方を飼えば良かろうに」

(あ…良かった聞かれていない)

ほっと胸を撫で下ろす幸村。

が、対する兼続は。

自分達を注意しに来た政宗が気に入らなかったようで、いつもの調子で食って掛かる。

「何だと偉そうに、「子犬」の分際で!!」

瞬間、場の空気が凍った事に、兼続は気付いていない。

幸村は兼続の後ろで、密かに額に手を当てた。

政宗はというと…。

「だっ…、誰が「子犬」じゃ馬鹿めっ!!」

案の定、顔を真っ赤にして怒り出した。

「ふん、子犬を子犬と言って何が悪…あ、」

そこで漸く兼続も、己の失言に気付く。

わなわなと肩を震わせる政宗。

「ま、待て…今のはその…」

珍しく赤面し、焦る兼続の言葉にも、当然政宗は耳を貸さない。


「少しばかり図体がでかい位で調子に乗りおって…」

政宗は子犬という言葉を、身長が低い自分への揶揄だと判断したらしい。

「…赦さぬ」

政宗の目が光を放ち、冷たい銃口が兼続に向けられる。

「待て、山い…」

その時。

「そんな、気になさる事無いじゃありませんか。政宗殿はそのままで充分お可愛らしいですよ」

横から、爽やかな笑顔の幸村が口を挟む。

(馬鹿…幸村…っ!)

兼続が言葉にならない叫びを上げた瞬間。

政宗のマントがひらりと翻った。



暗転…

「ふぅ…」

思う存分恨みを晴らし、すっきりした顔で立ち去る政宗。

その足元には…煙を上げて横たわる、二人の男の姿があった。



あとがき→
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ