無双的駄文
□山犬子犬/兼→政←幸
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「幸村、折り入って話がある」
「何でしょう、兼続殿」
「山犬は、何故いつになっても私に懐かんのだ」
「はぁ…」
「お前はあの山犬と親しいのでは無かったか」
「ええ、まあ//…私も政宗様を慕っておりますし」
「そんな事は聞いていない」
「…兼続殿」
「あの山犬は、お前が話し掛けると瞳を輝かせて話す癖に、私と目が会うとゲジゲジでも見るかのように…」
「それは…(仕方無いでしょう)」
幸村は苦笑する。
「何だ」
「いえ…ただその」
「ん?」
「まずは山犬という呼び名を改められては如何でしょう」
「山犬を山犬と呼んで何が問題だ」
「問題大ありですよ!」
幸村は声を張り上げる。
「山犬などと呼ばれたら、誰だって怒るに決まってます。第一…」
「だいいち?」
「気紛れで気位の高い政宗殿は…犬というより猫ではありませんか!!」
「ゆ、幸村」
幸村の迫力に、流石の兼続も怯む。
「政宗殿は絶対に猫です」
しかし、負けては居られない。
友が相手でも己の主張を通すのが武士。
「あいつは山犬だ!!少しからかうと直ぐにきゃんきゃん吠える犬だ!!」
「猫です」
「犬だ」
「子猫です!」
「子犬だ!」
下らない小競り合いが頂点に差し掛かった時ー。
「さっきから猫だ犬だと五月蝿いわ馬鹿め!!」
背後から怒号が飛んだ。
二人が振り返ると、其処には不機嫌を露わにした政宗が、仁王立ちしていた。
「これは政宗殿、大変失礼致しました」
今の話を聞かれていただろうかと少し焦りながらも、幸村は直ぐに頭を下げる。
そんな幸村に、政宗は呆れ顔で溜め息を吐く。
「庭先で騒ぐなどお主らしくも無い…犬でも猫でも飼いたい方を飼えば良かろうに」
(あ…良かった聞かれていない)
ほっと胸を撫で下ろす幸村。
が、対する兼続は。
自分達を注意しに来た政宗が気に入らなかったようで、いつもの調子で食って掛かる。
「何だと偉そうに、「子犬」の分際で!!」
瞬間、場の空気が凍った事に、兼続は気付いていない。
幸村は兼続の後ろで、密かに額に手を当てた。
政宗はというと…。
「だっ…、誰が「子犬」じゃ馬鹿めっ!!」
案の定、顔を真っ赤にして怒り出した。
「ふん、子犬を子犬と言って何が悪…あ、」
そこで漸く兼続も、己の失言に気付く。
わなわなと肩を震わせる政宗。
「ま、待て…今のはその…」
珍しく赤面し、焦る兼続の言葉にも、当然政宗は耳を貸さない。
「少しばかり図体がでかい位で調子に乗りおって…」
政宗は子犬という言葉を、身長が低い自分への揶揄だと判断したらしい。
「…赦さぬ」
政宗の目が光を放ち、冷たい銃口が兼続に向けられる。
「待て、山い…」
その時。
「そんな、気になさる事無いじゃありませんか。政宗殿はそのままで充分お可愛らしいですよ」
横から、爽やかな笑顔の幸村が口を挟む。
(馬鹿…幸村…っ!)
兼続が言葉にならない叫びを上げた瞬間。
政宗のマントがひらりと翻った。
暗転…
「ふぅ…」
思う存分恨みを晴らし、すっきりした顔で立ち去る政宗。
その足元には…煙を上げて横たわる、二人の男の姿があった。
あとがき→