無双的駄文

□出会い/兼政
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栗毛の張り付いた額から、滴り落ちる汗。

苦悶に満ちた表情。

せわしい息遣い。

柱に背を預けた青年は、瞳を閉じたまま、呻く。

「父…上」

絞り出すようなその声に、兼続の足が止まった。


上田城主の息子幸村が所用で遅れるというので、兼続は一足先に事情を伝えに来た。

先客は二人と聞いていたが、柱に凭れて眠るのは、未だ少年の面影残る青年一人。

特徴ある面差しに、三日月を冠した兜を見て、内心驚く。

(伊達…政宗ではないか?)

弱冠十八歳で家督を継ぎ、苛烈な戦い振りでめきめきと頭角を現しているという若手大名。

端麗な容姿、加えてその人となり。

噂は当然、兼続の耳にも届いている。

父を殺して家督を奪い、親戚筋でもあった敵の城兵を虐殺。

人倫に悖る不埒な奴、と兼続も思っていた。

目の前の青年を見る迄はー。

押し殺すような泣き声。

閉じられたままの隻眼から、一筋の涙が零れ落ちる。

「!!」

その美しさに、一瞬にして目を奪われた。


涙の雫が頬を伝うのを無言で見守っていた兼続だったがー。

「ちち…う…え」

幼子が親を呼ぶような、舌足らずな声。

みるみる蒼褪めてゆく唇。

「…ぅ…く…」

無意識に縋る相手を求めて彷徨う手が痛々しく、兼続は思わず腕を伸ばした。

差し出した袖を掴ませてやると、兼続は自由な手で何度も濡れた髪を梳く。

包み込むように頬を撫でれば、政宗は安堵し切ったように体の力を抜いた。

精悍だった顔立ちが、ふわりと幼いものに変わる。

「全く…これが奥州に覇を唱える男の顔か」

呆れたように呟いた兼続の眼差しは、しかし何処か慈愛の色を含んでいたという。





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