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□実験しましょう
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「ちょ、ちょ、待って下さい!人体実験なんて聞いてませんでしたけど!?」
「まぁまぁ、説明するから落ち着いて」

 人体実験されると聞いて正気でいられる訳がない。
俺は息も荒く、ソファに座り直した。

「僕が生物学を研究しているのは知ってるよね?」
「勿論知ってます」

 専攻ではなかったが、何度か講義を受けたことがある。なかなか興味深い内容だったと思う。

「生物学で大切な基本て何だと思う?」
「え…?」

 いきなり真面目な話になり、困った。

「遺伝子とか進化とか…?」
「うん、惜しい。僕は生殖だと思ってる」
「はぁ」
「僕の研究は簡単に言うと、生物が繁殖するために必要な生殖活動をより良いものにすることなんだ」
「な、なるほど…」
「そこで君の力が必要なんだ!!」
「!?」
「大丈夫!動物実験では既に成功しているし、怪しい薬品や人体に悪影響のある物質は使用していない!!」
「は、はぁ…」

 あまりの熱弁に気圧されそうだ。

「それに、この話蹴って次のあては?」
「う゛っ…」

 痛い所を突かれた。
そう…。俺には他に行く所がないのだ。
就職試験を受けた企業機関は尽く落ちた。
バイトも、どこも手が足りてると言われて断わられた。

「確か君、奨学金も借りてたよね?有利子で4年分。うち私立の中でも1、2を争う位学費高いから大変だろうなぁ。親御さんにも頼れないんでしょ?」
「な、何故それを…」

 親の反対を押し切って分不相応な名門校に入学し、家を出たので仕送りも一切ないし、職なしで実家に戻ったらそれこそ勘当もんだ。
この話を蹴ったら確実に路頭に迷うことになる。

「第一に安全を保証する。君は企業のサンプルモニターにでもなったつもりでリラックスしてくれればいい。僕がデータをとって記録していくから、感じたことや思ったことを素直に表現してほしいんだ」
「…」
「給料も悪くないはずだよ?」

 確かに…。給料は文句のつけようがない額だった。

「わ、分かりました…やります」
「良かった!改めてよろしくね、蓮見君」
「はぁ…」

 背に腹はかえられんとは正にこのこと。俺は悪魔に魂を売った気分で契約書にサインした。
 
 
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