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□winter
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「い、嫌だあぁ――――!!」

 爽やかな朝に似つかわしくない大声は夏樹だった。

「いい加減にしなさい!」
「う゛…だって、行きたくない――!!」
「………」

 流石の千春も、今回は手を焼いていた。

「まぁまぁ夏兄ちゃん、たったの二日間なんだしさぁ、ね?」
「うっさい!美冬に俺の…俺の悲しみが分かってたまるかぁ!」

 騒ぎの原因、それは…

「おはよー…って夏兄まだ騒いでんの?」
「あ、あ、あ"ぎどぉ―――!!」
「ちょっ、泣くことないだろっ」
「二日間も秋人と会えないなんて、寂しくて死んじゃうよぉ!」

 夏樹がサークル遠征で家を空けるのだ。

「じゃあ、死ねば?(ボソリ)」
「何をぅ!?美冬はいいさ!俺達がいない間秋人を独り占め出来るんだから!!あんなことやこんなことを…ハッ!秋人が危ない!!やっぱり俺は行かない―――!!」

 夏樹がここまでごねるのには訳があった。
それはなんと、父元と長男千春も同じ期間出張で家を空けるのだ。
その間家には秋人と美冬の二人きりになる。
夏樹は秋人の貞操が心配でならないのだ。

「何馬鹿なこと言ってんだよ。夏兄じゃあるまいし、美冬が変なことするわけないだろ!?それに、美冬は中学生なんだから、そういうことはまだ早いっつーの!!な、美冬?」
「え…?あ、あぁ…うんっ」

 ニッコリ笑って答える美冬に満足げな秋人だったが、裏で悪魔の微笑みをしているとは露程も思わないのだった。

「夏樹行くぞ。乗らないなら置いていくからな」
「わ、分かったよ…」

 まだ諦めのついていない夏樹の背中を玄関に追いやると、振り返って真剣な表情で話し始めた。

「二人とももう子供じゃないからくどい事は言わない。とにかく気を付けるように」
「「うん」」
「家に帰ったら必ず連絡すること」
「「うん」」
「鍵はしっかりかけて、誰が来ても絶対に玄関は開けないこと。宅配を装った強姦魔もいるらしいからな」
「う、うん」
「それから、カーテンはあまり開けないこと。盗撮の恐れもあるからな」
「「………」」
「それから…」
「分かったよ!とにかく気を付けるから!そろそろ時間でしょ?いってらっしゃい」
「そうだな。ん?…父さん!!」

 カーテンの裏側に回ると、膝を抱えていじけている父元を引っ張り出してきた。

「いい加減にして下さい!いい年して…」
「う゛…だって、可愛い息子を置いて仕事なんて出来ないよぉ…」
「行きますよ…」
「い、嫌だぁ――!秋人――!お土産買って来るからね――……」
「「・・・」」

 ようやく静かな朝が戻り、二人の留守番が始まったのだった。
 
 
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