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□チョコより甘く
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(ど、どうしよう…)
世間はバレンタイン。
意識した男女がソワソワと浮き足立つ。
製菓業者の陰謀に踊らされちゃって、と小馬鹿にしていた俺だが、今鞄の中には可愛くラッピングされたチョコが入っている。
「ヒナ、おはよう」
「うひぃっ!?」
玄関を出たところ突然声を掛けられ、死ぬ程驚いてしまった。
「変な声出してどうしたの?」
「た、達也がいきなり声掛けるからだろっ!?ばかぁっ!!」
「あはは、ごめんごめん。ほら、学校遅れるよ?行こう」
「うー…」
「はいはい、唸らない」
ニコニコ笑顔で俺の隣を歩くのは松本達也。うちの隣に住む幼馴染みだ。
「ヒナ、ストップ」
「ん?」
「またネクタイぐちゃぐちゃ。一体何年結んでるの?」
「ムっ…だって難しいんだもん」
「…まぁ、俺が直すからいいんだけどね」
「なっ、いい!自分でするっ」
ネクタイに掛かった手を慌てて払い除ける。達也は小さい頃からこうやっていつも俺の世話を焼いてくれていた。
お互い一緒にいるのが当たり前で、この関係はいつまでも変わらないと信じていた。
それがまさか、達也を好きになっちゃうなんて…!!
きっかけは確か去年、高2の夏。遅く来た成長期ってやつだ。
もともと俺とそんなに変わらない体型だったが、グングン背が伸び、いつの間にか逞しい身体つきの“男”になっていく達也。
そんな成長っぷりをいつからか直視出来なくなり、意識するようになっていた。
この気持ちが恋だと自覚したのは冬。女の子から告白されまくる達也に何故だかイライラしてた。その正体が嫉妬だと気付いた時は愕然とした。
「ん?何だこれ…プレゼント?」
「!!」
来た…。第一関門、下駄箱攻撃!!
「“松本君へ”?…俺別に今日誕生日じゃないんだけど」
「…バレンタインだから、だろ?」
「あぁ、そっか。バレンタインかぁ」
「…鼻の下伸ばして馬鹿みたいっ」
(こんなこと言いたいんじゃないのに…)
今すっごく嫌な言い方だった。さすがの達也も怒ってるかと思い横目で窺うと、
「うーん…。気持ちは嬉しいけど、こう言うのって好きな子から貰えないと意味がないんだよね」
「えっ…?」
(達也に…好きな人!?)
長い幼馴染み歴の中でも初耳だった。俺は明らかに動揺していた。
「好きな人って誰!?クラスの子!?」
「…ヒナ気になる?」
「べっ別に!!あぁもう!先行くっ」
「あ、こらヒナ。先行くなよ」
達也を置いてスタスタ歩き始めるが、脚の長さの違いであっという間に追い付かれてしまった。
かなり悔しいんですけど。
「付いて来んなっ」
「って言っても同じクラスだし…」
「うー…うっさいっ」
「あはは」
(また笑った!馬鹿にしてんのかコイツ)
それから俺は、授業が始まっても、達也の好きな人が気になり、全く集中出来なかった。