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□イケナイお薬でイキましょう
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「蓮見くーん」
ひっそりと佇む1号館に、今日も間延びした声が響く。
「はい、おにぎり作ったのでどうぞ」
「ありがとう。お腹減り過ぎて目が回ってたんだぁ。ところで、明日の資料…」
「はい、30部綴じておきました」
「おぉー、ありがとー」
この緊張感のない声の主こそ、俺の上司、加東俊也なのだ。
ボサボサ頭に分厚いビン底眼鏡、薄汚れた白衣がトレードマークの残念な身なりだが、隠された素顔は、息を飲む程の男前。
過去に色々あったようで、普段はこんな格好をしているらしい。
「蓮見君、仕事大分慣れてきたね」
「そうですか?役にたてているといいんですけど…」
「十分過ぎるくらいだよ」
就職浪人になり、途方に暮れていた俺を助手として雇ってくれた加東。
研究者として生物学界では有名人らしいが、それ以外の部分はまるでだめ。
放っておいたら、食事も睡眠も摂らずに研究しているので、仕事の手伝いの他、身の回りの管理も俺の仕事になりつつある。
助手になって約2週間。
仕事も分かるようになり、大体のことは難なくこなせるようになった。
まさに順調。…ある一点を除いては。
「あ、そうだ!蓮見君に見せたい物があるんだぁ」
「!!」
(来た…)
「ジャジャーン!!」
「…薬、ですか?」
「ふふふ、ただの薬じゃないんだなぁ」
「はぁ…」
加東がいきいきとしている時は、研究で新しい発見があったか、実験を始めるかのどちらかである。
俺としては前者であってほしい。
「これはね、イかせるんです16号の体液から催淫成分を抽出した強力催淫剤なのです!」
「…やっぱり」
「これを飲めば、どんな不能な人でもたちまち元気!イキたくって仕方がなくなる強ーい味方です。で、蓮見君…」
嫌な予感がする。と言うか、嫌な予感しかしない。
「人体でのデータが欲しいから、早速飲んでくれる?」
(やっぱりそう来たか―――っ!!)