main

□実験しましょう
1ページ/13ページ

 
 22歳の春。
俺は社会の厳しさを痛感した。
世の中は不景気。
大学を卒業してもそう簡単に仕事は見つからず、俺は当然の如く就職浪人となった。

 でも、救いの手を差しのべてくれる人もいるもので、俺を大学の助手兼研究生として拾ってくれたのだ。

 加東俊也。俺が通っていた成昭大史上最年少教授で、生物学を研究している。
寝癖のついたボサボサの髪に分厚いビン底眼鏡、とても白衣とは呼べない色の白衣がトレードマークの研究マニアだ。

 見た目がとんでもないので学生達からは敬遠されてるが、俺は別に嫌いじゃない。
他の教授のように傲ったところもないし、出世欲にまみれてもいない。
何より研究第一で他人に干渉しないので、俺にとっても都合がいいのだ。

「失礼します」

 大学内最奥にある1号館。
別名恐怖の館。ここが奴のアジトだ。
階段を上り、ラボ隣の準備室を訪れた。

 うちの大学、実は日本有数の名門校で、広大な敷地に中学、高校が隣接している。
その他にも映画館やショッピングモール等他では有り得ない施設が充実しているにも関わらず、何故かこの1号館だけは創設当時の古ーい姿で残っているのだ。

「どうぞ」

 ドアを開けると薄汚れた感じの男が出てきた。この男が加東だ。

「蓮見透です。今日から助手兼研究生としてお世話になります。どうぞ宜しくお願いします」

 今日から俺の上司になる訳で、お世話になるので一応菓子折を持参した。

「そんな気を遣わなくていいのに。よろしくね、蓮見君。さ、どうぞ中に入って」
「はい。失礼します」

 驚いた…。
そこは、とても準備室とは思えない程の広さなのだ。
いや、寧ろ準備室ではない。
キッチンにトイレ、奥には…寝室!?
ここは古いワンルームマンションか?

 今まで実験器具の片付けで入口付近まで来たことはあったが、奥がこんな風になっていたとは思いもしなかった。

 案内されたソファーに腰掛け、キョロキョロと見回していると、加東がお茶とお菓子を出してくれた。

「まぁ、まずは飲んで」
「すいません、ありがとうございます。いただきまーす」

(あ、美味い…)

 多分どこででも売ってるようなお茶なんだろうけど、なんだかすごく美味しく感じ、勧められるままおかわりをしてしまった。

「準備室、こんなに広かったんですね」
「ん?あぁ、驚いた?今僕達がいる部分が準備室、奥は僕の居住スペース」
「居住スペース!?」
「いやぁ、学内に寮も借りてるんだけど、研究に没頭してるとなかなか帰れなくて…バスルームもあるんだよ」
「へぇ…そうなんですか」
「じゃあ、早速で申し訳ないんだけど、仕事の話をさせてもらってもいいかな?」
「あ、はい!」

 うっかり寛いでしまい、大切なことを忘れていた。
今日から助手兼研究生としての仕事がスタートするのだった。

「まず助手としてお願いしたいのは、授業で使う資料作り、準備・片付けの手伝い、あと実験動物達の世話、かな」
「はい」

 大体予想通りの内容だ。

「次に、研究生としての仕事は…」

 きっとデータ集めとか記録とかだろうな。直接研究に携わることはないだろう。

「人体実験の被験者になってもらいます」
「はい」

 ほら予想通り。人体実験……

「人体実験!?」
「そう」

 そ、そんなの…聞いてない―――!!
 
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ