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□ever green
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俺には、もう何年も果たせていない約束がある。
いつ、誰と交わしたものなのか記憶も薄れ始めて久しい、幼い頃の約束。
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『響』
泣きじゃくる俺に優しい声が降る。
『ぅ…ふぇ…どうしても、行くの?』
『うん。ごめんな?』
『やだぁ…行かないで』
『この木が大きくなったら迎えに来るよ。何年後かの今日、この場所でまた会おう』
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ここは秘密の花園。
主のいない大きな屋敷の庭で、高層マンションが建ち並ぶ賑やかな住宅街にありながら、煉瓦に隔てられたその空間は、人知れず四季折々の美しい花を咲かせる。
俺は、相手の顔も思い出せないと言うのに、馬鹿の一つ覚えみたいに毎年毎年ここを訪れる。
そして誰もいない静かな庭で、少しずつ成長するこの木を見上げながら、一つ大きな溜め息を漏らすのだった。
「1、2、3、4…今年で丁度10年か」
10年の間に色々なことがあった。
当時小1だった俺は高校2年になり、部活に勉強、それなりに恋もしてきた。モテない方ではないので、何人かから告白されて付き合ったりもした。
でもいつも、どこか他人事のようで長くは続かない。
あの時俺の膝丈程だった木の苗はぐんぐん大きくなり、天まで届きそうな巨木へと成長した。
今年もまた、約束の日がやって来る。