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□Baby Smoker
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「始末書を早急に提出すること。先方の出方次第だが、詳しい処分は追って知らせる。いいな?」
「…はい。申し訳ありませんでした」

 静かにドアを閉めると、冷たい無機質な廊下を真っ直ぐ進んだ。

(ヤバイ…泣きそう)

 社会人2年目。
大きくはないが、初めて一人で任された取り引き。
相手は古くからのお得意で、社長とも旧知の仲らしい。

 プレゼンを兼ねたミーティング。
絶対安全と言われた契約でまさかの凡ミスを連発してしまったのだ。
書類の不手際に始まり連絡ミス、その他諸々…
思い出しただけで胃が痛くなる。

 暗い階段を上り思い切りドアを開けると、冷たい風が吹き込んできた。
ここは屋上。
落ち込んだ時に必ず訪れるお気に入りの場所だ。
特に絶景という訳ではないが、何の感情もなく建ち並ぶビルと、忙しなく動き回る人々を眺めていると、不思議と心が静まるのだ。

「なーんだ先客かぁ」
「…!」

 間延びした声に振り向くと、屋上の入り口に一人こちらを見ている男がいた。

「町田、さん…?」
「わっ、何?お前泣いてんの?」

 ツカツカと近付き、無遠慮に顔を覗き込んできたのは同じ職場の先輩で、入社当時から俺の教育係として色々教えてくれている人だ。
小柄で可愛らしい顔立ちをしている為、よく学生に間違えられるが、こう見えて御年32の大先輩だ。

(あぁー、嫌な人に会ってしまった…)
 
 
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