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□ねこ日和
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「は?」

 朝目覚めると、隣に見知らぬ美少女が眠っていた。
年は13〜4だろうか。
毛布にすっぽりと包まり、スースーと小さな寝息をたてている。

「嘘だろ…?」
「ん…」

 俺の動きで目を覚ましたのか、少女がゆっくりとした動作で起き上がった。
毛布がはだけて気付いたが、体には何も身に付けていないようだ。
朝日が差し込み、透き通るような白い肢体が眩しい。

 何が起きたのか分からず、呆然と見つめていると、微睡みから覚醒した少女の瞳とぶつかった。

 ハチミツ色の大きな瞳が揺れている。
マヌケ面の俺とは反対に、嬉々とした表情を浮かべ俺に抱き着いてきた。

「リョースケ!」
「ぅ、わぁっ!?」

 同じくハチミツ色の髪はフワフワと柔らかく、俺の頬をくすぐる。
そして目の前には、ピクピクと小さく揺れる白い獣の耳と尻尾。

(…え!?尻尾!?)

「何だ…これ?」

 コスプレか何かかと思い、目の前でゆらゆらと揺らめく尻尾に、思わず触れてみた。

「ひあぁっ!!」

 その瞬間、高い声をあげ、少女の身体がビクリと跳ねた。

「尻尾、触っちゃヤダ…」

 どうやら尻尾も耳も本物らしい。
ということは…

「君…一体何者?」
「…?何者じゃなくてハクだよ?」
「ハ、クって…えぇ!?」

 “ハク”とは、俺が最近飼い始めた猫のことである。
丁度一週間前、突然彼女にフラれたデートの帰り道、何となく通った公園にその猫は捨てられていた。
身体には無数の傷があり、虐待されていたのだろう、かなり怯えていた。
警戒心が強く、なかなか懐かなかったが、ここ2〜3日でようやく心を開いてきていた。
真っ白な毛並みを見て白(ハク)と名付けた。

「嘘だろ…?だってハクは猫だし、人間なはずない」
「ハク、お月様にお願いした。人間にして下さいって」
「お月様に…?」

 昨日は満月だった。
大きくて、鏡のように明るい月。
昔から満月には不思議な力があると言われているが、二十歳も過ぎた大人が、そんなおとぎ話のようなこと信じられるはずがない。

「嘘じゃないもん。…あ、そうだこれ見て」
「…!!これは…」

 ほら、と言いながらハクが見せたのは、左胸にある小さな跡だった。

「前のご主人に付けられたの…」

 そういえば猫ハクの胸にも、同じような跡があった。
煙草を押し当てられたような火傷の跡だ。

「本当にハクなのか…?」
「うん!」

 確かに、昨日の夜までいた猫ハクの姿はなく、身体的特徴は一致している。
ドッキリや友達の悪戯かと思ってカメラを探すがそんな物はどこにもない。

「マジかよ…」

 とても信じられる話ではないが、こうなったら無理矢理にでも信じるしかない。
どうせ彼女にもフラれて暇だし一人暮らしだし、しばらく様子を見ることにしよう。

『ぐぅー』

 気の抜けるような音は、ハクの腹の虫だった。

「おなか、空いた…」
「ははっ、今朝飯準備するよ。待ってな」
「うん!」

 キッチンに向かう途中、俺はあることを思い出した。

(そういえば…)

 そう…。ハクはオスなので、美少女ではなく“美少年”なのだ。
 
 
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