Lovers Collection

□年の差なんか好きになってから考えればいい 
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こんなにも迷った、のは何に
こんなにも考えた、のは何を

今となってはそれは、迷ったのでも考えたのでもなく、ただ自分の中にそういう履歴というかカテゴリーがなかったから、戸惑った、だけ。もしかしたら戸惑っているを装っていただけなのかもしれない…年下、という肩書に。


―――年下の公務員なんて即買い、でしょ
―――逃したら、次はないよ、こんないい話


周りからそう言われる、その彼と知り合ったのは、同僚でもある友人の紹介、と言うか合コンに連れて行かれたその場に、彼も同じように同僚に連れてこられたそんな感じで参加していた。

少し店を抜け出し息苦しかったのを吐き出すように夜空に背伸びして、思いっきり吸い込んだ夜風に混じるタバコの匂いに思わず咽そうになる。ふと横を見れば壁に凭れ火を灯したばかりのタバコの紫煙を燻らせていた彼が―――すみません―――とバツが悪そうに小さく頭を下げ、顔を背け足元に向かって白いものを遠慮がちに、でも勢いよくふーっと吐き出した。その仕草がなんとなく、叱られた子供の様に可愛くて、


『普通に吸っても大丈夫だから』


そう言えば、申し訳なさそうに頭を掻きながらちょっとだけ顔を背け夜空にふわりと紫煙を揺らした。そうやってしばらく彼の燻らす紫煙とその向こうに流れる街の明かり、みたいなものをぼんやり見ながら取り留めのない話―――彼は刑事だとか、課長だとか、年下だとか―――を気づけば30分ほど続けていた。


なんとなくその時から思っていた。年下なのに、随分しっかりしているのは課長だからだろうか。年下なのに、えらく肝が据わっているのは刑事だからだろうか。年下なのに、年下なのに…と。


それから何度かその彼の同僚狙いの友人と彼達と2対2での食事に付き合わされて。そのたびに付き合わされている、のだろうか、彼ともそうやって一緒に食事をする機会が増えていった。そのたびに―――年下なのに…な―――と思うことが1つまた1つ増えて。そうやって増えていくことが食事より楽しみになっている自分に気が付いたときには、何かいけないもの、小さな罪悪感みたいなモノも一緒に抱えてしまう。


―――年下…ということは私の方が年上、はあり得ない。ないない


そうやってもうすっかり馴染んだ何度目だろうか4人での食事、その日もいつもみたいに4人でのはずが待ち合わせたテーブル、4人掛けのテーブルには彼と私だけしかついてなく、ポツリと2人分空いていて。置かれた水の入ったグラスに手をかけた時、ちょうど互いの携帯が震えた。


―――彼と2人で食事してきます。そっちもごゆっくり


との短い文章に唖然としていれば―――なっ、アイツ!―――と苦虫を噛み締めたような声が彼の口から零れた。同じ内容なのだとくすっと笑いながら、とりあえず食べようかと。

そうやって初めての、彼と2人での食事に少しだけ、浮かれたのだろうか、店を出るころは程よいアルコールが身体をふわりと包んでいて、送ると言う彼の大きな手をギュッと握りしめていた…のも、浮かれたからだろう、か。
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