Identification case(未完)
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及川さんが女性を気遣うように支え、僕が女性の購入したスーパーの袋を持ち女性の自宅まで送り届けた
そこは店舗兼自宅である蕎麦屋だった
しかし、すでに店は畳んで数年は経っているようで少し物悲しい雰囲気を醸し出していた
「荷物はこちらでいいですか?」
「あ…すみません」
蕎麦屋のカウンターやいすは綺麗に並べてあり、その向こうには埃をかぶっている大きな釜
そして棚に並べられたざる
ここにあるもの全てがまるで店主を待ちわびているように感じられる
「すみません。汚いところで…主人が他界してからつい、ずっとこのままにしてしまっているんです」
「そうですか…」
きっと親しみやすい素敵なお店だったに違いない
何年も使われていないようでも全てのものに温かみが感じられるから
フッと見るとカウンターの端に写真立てが置いてありおそらく亡くなった店主だろう、女性と子供と3人が素敵な笑顔で写っていた
「本当にご迷惑をおかけしました。よろしかったらお茶くらいでも…」
『いえお気遣いなさらないでください』
「私達はこれで」
一礼をし僕達は来た道を戻った
ただ…僕はなぜだろう
何かが胸につっかかるような不思議な違和感に捉えられていた