Lovers Collection

□ミッドナイトブルーの甘い唇音
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「愛菜って可愛いな」
てあなただけに思われればそれで

「愛菜しかみえない」
甘い囁きを鼓膜の奥に閉じ込めて何度も聴くの

昨夜のデートは内緒


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


すっかり遅くなってようやく終わった書類を桐沢のデスクに置く。


桐沢「あんまり無理するなよ」


なんて、優しい言葉と一緒に肩に触れた大きな掌と気遣うような柔らかい微笑みを残して、二課を出て行ったのは2時間ほど前。

触れた掌の温もりがすっかり消えて肩は冷えているけど、
あの微笑みと柔らかい眼差しがまだ胸をほんのり温めている。

タバコもライターも置かれていない。皆から集まった書類の山が雑然と積もっているだけで、今日は戻ってこないのだと思えばガランと空いたデスクがひんやり冷たく感じた。

時計を確認すれば23時を少し回ったところで、終電がなくなる前に帰ろうと、鞄を掴み二課の電気を消せば、バタンと扉が閉まる音が静まり返った廊下に響き渡った。

庁舎を抜けるとすっかり冷えた秋の夜風に身体を思わず竦めると、震え出す携帯を耳に当てた。


『野村さん?お疲れ様です』

野村「やっほ〜。愛菜ちゃん、遅くにゴメンね。今どこにいる?」

『庁舎出たところですけど・・何かあったんですか?』

野村「ちょうどよかった。ね、今からモンステおいでよ」

『お断りします』

野村「ハハ、即答で断らないでよ。あっ、でもこれは上司命令かな。じゃ、待ってるから」

『ちょ、ちょっと、野村さん?!』


電話の向こうからは賑やかな声が漏れ聞こえていて、ご飯か何かのいつも通りのお誘いかと思えば、上司命令と意味不明な言葉を残して一方的に切れた電話を握りしめながら、どうしようかと考えを巡らす。

(ぐぅ〜〜・・・)

お腹空いたからご飯食べに・・そうしよう

自分でも笑えるぐらい子供っぽいけど、
はっきりと分かりやすい至極単純な答え。

くすりと笑いながら、でも何食べようかな・・なんて現金な思考回路を巡らせながらモンステの扉を開いていた。


野村「愛菜ちゃ〜ん、やっぱり俺に会いに来てくれたんだ」

『お腹すいたからです・・・・あれ?桐沢さん?』


野村の横でテーブルに突っ伏して固まっているその大きな背中を見間違えるはずもない。
顔にかかる髪の隙間から見えるしっかりと閉じられた瞼、少し緩んだ口元、ほんのりピンク色した頬から首筋、真っ赤な耳たぶにゾクッと背筋に甘い痺れが走る。


野村「やだな〜、そんなに見惚れちゃって。愛菜ちゃん可愛いな」

『えっ、い、いや、見惚れてな、なんか・・』

野村「そう?口、空いてたよ」


慌てて口を両手で口を押える私を楽しそうに笑う野村の吐息もアルコールの香りが漏れていた。
一緒に飲みに来ていたら、特に飲み過ぎたってわけでもなかったはずなのに、前日からの徹夜の影響かあっという間に酔いが回って寝てしまったということらしい。


野村「珍しいよね。で、部屋まで運ぶのを手伝って」

『それで私を呼んだんですか?上司命令で?』

野村「俺は食事付きでもいいけど?」

『職権乱用』

野村「立派な人身保護でしょ、これ?」

『私の身の安全が危ぶまれていますが』

野村「ハハハ、俺を誰だと思ってる?」

『歩くセクハラ・・いえ、なんでも』

野村「ひどいなー。まっ、食事はまた今度ってことで、とりあえず洋クン連れてかえろっか」


抱えるようにタクシーの後部座席に乗り込むと同時に全身で凭れ掛かってくる桐沢

アルコールの香りがする熱い吐息が耳たぶを撫でるように掠めて、
火照った体がしがみつくように体に巻きついてきて、身体がドクドクと脈打って熱くなる。


桐沢「んん・・・愛菜〜」

『き、桐沢さん!!』

桐沢「・・愛菜って・・可愛いな〜」

野村「ハハハ、洋クン愛菜ちゃんだけはどんな時でも分かるんだね」

桐沢「愛菜〜・・・・」

『・・・・・』


恥ずかしくてきっと真っ赤な顔になってるけど、真っ暗で窓ガラスは赤さまでは映しはしない。ネオンの眩しさと深夜の暗闇に感謝した。



桐沢のマンションまで、野村は桐沢を運んでくれると、洋クンをよろしくと意味ありげな微笑みを残して手をひらひらさせて帰っていた。

なだれ込むように飛び込んだ真っ白なシーツ
どんな夢を見ているの?どんな酔い方したの?

そんなことはもうどうでもよくて、


桐沢「・・・愛菜しか見えない」


相変らず巻きついたまま離さない逞しい腕
首筋に埋められる顔が近すぎて、時折触れる唇


桐沢「愛菜、愛してる・・・・」

『・・・洋さん』


チョコレートが溶け出す真夜中
甘いカカオの香りに酔いしれて
こそっと重ねた唇 キャラメルみたい

愛しいスイートハート
合わせたおでこに花が微笑む


深い寝息と優しい心音
酔って寝てるのに強い腕の力
閉じこめられる胸のなかの火照る熱

寝てしまうのがもったいないほどの
ノクターンの夜 甘いドルチェの魔法 



左側のぬくもりとおはよう
揺れるカーテンが眩しい
シーツに朝日と好きが溢れている


桐沢「!!!」


驚いて目を丸くして、恥ずかしそうに頭を掻く左手。
右の腕枕はそのままで、もう少し微睡んでいたいから、


桐沢「お、俺・・昨日・・あ、あれ?」

『酔って寝ちゃっただけ・・それだけですよ』


とびっきり甘い囁きを聞いたこと
アルコール香る唇に触れたこと
ずっと抱きしめてくれたこと


昨夜のデートはまだ内緒


****おしまい****

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