Lovers Collection

□サムライだって一人の男
1ページ/2ページ

「わぁ!誰あのイケメン!!」
「ホントだー!ウチの大学にあんなカッコイイ人いた?」
「誰かの彼氏かなぁ?」
「いいなぁ、あたしもあんなイケメンの彼氏欲しい〜!!」

「ちょっとあなたたち!稽古の途中でしょう!集中よっ!集中っ!」

「「部長!す、すいませんっ!!」」

タタタタタッ。


「あら!?侍じゃなくって!?」

「あぁ、アンタか。相変わらず強烈だな。」

全身玉虫色の衣装に、頭から触角らしきものが生えていた。
恐らく今回も人間役じゃないんだろう。それだけは分かった。


「ふふっ、光栄ですわ。愛菜ちゃんね、ちょっとお待ちくださる?今呼んできますわ。」


コイツ、限りなく変だが、話は分かる奴なんだよな。

「あぁ、悪いな。」

「とんでもない。二人の愛は誰にも邪魔することはできないわ。そうよ、愛よ!全ては愛なのよ!エンダァァアア!!」

「……。」


やっぱり変だ。確実に。

触角をちぎれんばかりにブンブン揺らしながら去っていく玉虫色の小杉を、俺は黙って見つめるしかなかった。


「愛菜ちゃん!後藤侍がお迎えに来たわよ!」

「えっ、後藤さんが!?」

「愛の力のなせる業ね!さぁ、今日はもう上がって!」

「でも…」

「いいから。侍を待たせてはいけないわ。」

「先輩…。ありがとうございます!それじゃあ、お言葉に甘えて。」






「後藤さんっ!!」

愛菜が笑顔で手を振って走ってくる。


「おぅ、ってお前…」

「え?」

「その格好は…。」

「あ、ははっ、変ですよね。私がギャルとか。」

「い、いや、少し驚いただけだ。」


正直少しどころじゃなかった。

どうした。何があった。
つーか露出しすぎだろう!


「今度の作品が、踏み潰されそうになってたカナブンを助けた地味な女の子が、109に連れていかれて、そこでもらった玉虫箱を開けると、ギャルになって、そこからカリスマ読者モデルになって芸能界に進出していくっていうサクセスストーリーなんです。」


毎度のことだがぶっ飛んだ話だな。

どうしたら亀がカナブンになって、竜宮城が109になって、玉手箱が玉虫箱になって、じいさんがギャルになるんだ…。


「だからアイツはあんな格好だったのか…。でもアイツが踏み潰されるとか、ありえないだろ。」

「あ、踏み潰されそうになるカナブン役は吉田くんで、小杉先輩はカナブンの親分役です。玉虫箱を渡す重要な役なんですよ!」


「カナブンのオヤブン…。そ、そうか、すごいな…。」

「はいっ!」

「フッ。」


こんな普通の人間が聞いたら確実に意味不明な話を、目をキラキラさせて話す愛菜がなんだか可愛くて、ちょっと笑ってしまった。


「愛菜ちゃん!台本忘れてるわよ!」

見ると、小杉がまた触角を揺らしながらこっちに向かってくる。

「あ、すいません!ありがとうございます。」

「そうだわ!今回の『ギャル島玉子』は、愛菜ちゃんが主役ですのよ。ぜひ侍も観にいらして♪」

「あぁ、できるだけ都合つけて行く。」

「ふふっ、良かったわね、愛菜ちゃん。」

「はい!」


小杉の脳内ほど謎なものはない。でも、愛菜を含めてみんな真剣で、部員からのコイツの信頼は厚い。実は何気に俺もコイツのことは信用している。


「じゃあ、悪いがコイツ借りてくぞ。」

俺はそう言って愛菜の頭に手を乗せた。


「えぇ、どうぞ。愛菜ちゃん、またね♪」

「あっ、はい!お疲れ様でした!」



そして俺たちは愛菜のアパートに向かった。


信号待ちの車の中、愛菜が言う。

「後藤さん、本当に観に来てくれるんですか!?」

「あぁ、なんとかする。」

「うれしいです!私がんばります!」

嬉しそうに笑う愛菜の頭を撫で、目を細める。

そしてふと目に入ったのは…


愛菜のナマ足。


!!!


ショートパンツから誘うように覗く白い太もも。


「…さん、後藤さん!」

「んっ!?」

「青ですよ!?」

「あ、あぁ…。そうだな。」

そう言って俺は何事もなかったように、また車を走らせた。


「後藤さんがボーっとするなんて珍しいですね。きっと疲れてるんですよ。それなのに私の送り迎えまで。すみません。」

「いや、これは俺がしたくてしてるだけだ。気にするな。」

「ふふっ、ありがとうございます。でも無理はしないでくださいね。」

「あぁ。」


いや、無理してでもやるに決まってんだろ。
一柳達にはお前のこんな格好絶対見せたくねぇ。何がなんでも。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ