Lovers Collection
□二人の宿直
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涙が止まって、報告書を書こうとボールペンを持とうとした時だった。
「ただいま。」
修介が戻ってきた。
今どんな表情をしているのか確かめたいけど…どんな顔して見ていいのか分からない。
泣き腫らした顔を見せたくない…そんな思いで私は俯いていた。
「及川…?」
『うん…?』
報告書を書くふりをして返事をした。
「及川…顔見せて。」
この雰囲気に堪えれなくて顔を上げると…また涙がこぼれそうになった。
その顔を見られないように、報告書で顔を隠した。
「なんで泣くの…?」
『だって…突然怒って出ていくから…』
「ごめん…俺の伝え方が悪かった。」
私のところへ来た修介がギュッと抱きしめてくれた。
「泣かないで。」
『うん…』
泣き止むまで、優しく背中をさすってくれた修介。そっと見上げると視線がぶつかり合った。
「及川?ソファーに行こう。」
『うん。』
手を引かれて二人でソファーに座った。
「及川…風邪引いてるでしょ?」
『えっ…?』
「一週間くらい前から、きつそうだし、声も変わってるし。無理して宿直変わったらダメだよ。」
修介には全部お見通しだったようだ。
『でも最近、修介と二人になれてないから…宿直したら二人でいれると思って…』
体調の心配をしてくれる修介に対して…私はすごく子どもっぽい考えだと思う。でも…口からは次々と気持ちが溢れ出た。
「もぉ…なんでそんなに可愛いの?」
抱きしめると同時に唇を塞がれた。
『わぁっ…!!』
「本当…どこまで好きにさせるの。」
顔を赤くした修介が立ち上がって、机からコンビニの袋を持ってきた。
「さっきこれを買いに行ってきたた。」
差し出された袋の中には…風邪薬・栄養剤・冷えピタ・スポーツドリンク・ゼリーなどたくさんの物が入っていた。
『修介…。』
「俺も及川と二人で居たいって思ってたよ。でも…無理したら仕事にも来れなくなる。そしたら、及川の顔も見れなくなるんだよ?触れなくても…話さなくても…顔が見れるから頑張ってたのに…それがなくなったらどうしたらいい…?」
無口な修介が自分の想いをたくさん伝えてくれた。それだけで嬉しくて、私は修介の胸に頬を寄せた。
『ごめんね…毎日顔が見られるように風邪治すからね。』
「そうして。今日は突然の事件がない限り、ここで横になってて。」
『でも…』
「言うこときいて。」
そっと寝かせてくれると、仮眠室から毛布を取ってきてくれて私に掛けてくれた。
「熱はないの…?」
『たぶん…。』
そう言うとオデコがコツンと重ねられた。
『修介…!!』
「ちょっと熱い…冷えピタはろう。」
私のオデコに優しく冷えピタをはってくれた。
「顔も赤いし…熱が出てきたかな…。」
『そうかな。』
手を握って優しく頭を撫でてくれる修介。
その姿を見たら… "顔が赤いのは修介が近くに居るからだよ"と言うのがもったいなくて心の中にしまっておくことにした。
「ずっと側に居るから寝て。」
『ありがとう。』
そのまま規則正しいリズムで撫でられる手の温もりに…眠りついた。
初めての二人っきりの宿直は…修介の優しい看病で終わった。
でも…修介の優しさと、たくさんの愛情を感じて幸せな気持ちになった。
あれからしばらくして目が覚めて、すっかり体調が回復した私は…そっと仕事をする修介を見つめ続けたのは秘密にしておこう。
Fin…