* ふぞろい四重奏 *
□第一章 姫のお見合い
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城を抜け出したベルガが向かったその先は―
城下町の酒場『オクトパス』
店の前は何やら年頃の女の子達でごったがえしている。
「ちょっとぉっ!
どいてっ…
どいてよぉっ!!」
ベルガは大声を張り上げながら無理やり人の波に体をねじ込ませ、強引に店の中に押し入った。すると
〈 ようこそオクトパスへ!!
オーシャンズ御一行様 〉
というカラフルな文字が目に飛び込んできた。
「何? あのダサい横断幕…」
オクトパスの主人ワモンのセンスだ。
『オーシャンズ』とは近頃近隣諸国で若者に大人気の“アイドルグループ”で、ミーハーなベルガはメイド達の噂で今日の生ライブの事を知り秘かに楽しみにしていたのだ。
ところが…
「よう、やっぱり来たな?」
不意にそう声がしたかと思うと、いきなり手首を掴まれ何も言えないうちに店の外へと引っ張り出されてしまった。
「ちょっ、痛いっ。痛いじゃな
いっ…
ちょっと放してよっっ
この“スケベッ”!!」
「ス、スケベッ!?」
そういわれのない罵りを受けた “エメラルド”の瞳をもつ長く美しい金髪の青年の名は『キース』
年は十八、九というところか…
長年王家の世話役として仕えるコ・ウテイ・ペ・ンギーの“孫”で、身分の違いはあれど二人は幼なじみとして『実の兄妹』のように育った―
「何なのよいきなりっ。ライブ
おわっちゃうじゃない!」
そう言って中に戻ろうとすると、再び手首を掴まれた。
「どうすんだよ? 見合い、
すっぽかしてきたんだろ?
今頃皆大騒ぎだぞ」
「“見合い”? 誰の?」
「お前に決まってるだろ」
「・・・アタシッッ?!」
「あんだよ、気付いてトンズラ
かましてきたんじゃないのか
よ?」
「あ、相手は誰よっ?」
「…………」
少し迷ってキースは答えた。
「ナリ・キーン国の『イヤ・ミー』
王子…」
「イヤ・ミー!? あの“超ワガ
ママ”だっていう?」
それには答えず
( お前も似たようなもんだって
… )
とキースは心の中で突っ込みを入れた。
「ちょっとキースッ!アンタ見
合いのこと知っててなんでア
タシに黙ってたのよっ?!」
「俺も今さっき知ったんだよ、
メイドたちの会話を偶然立ち
聞きしてな。
俺の口からお前に漏れないよ
うにじーちゃんが皆に口止め
してたんだろ、きっと… けど、どうせお前が最後まで
素直に見合いの席に座ってる
わけねーし、
今日が『オーシャンズ』のラ
イブだってことは俺も知って
たからな。“ミーハー”のお
前が来ないわけないと思って
先回りしてたのさ」
「悪かったわね、ミーハーでっ
“女好き”よりよっぽどましよ
っ!」
「アンだって?!」
睨むキースの視線をベルガは当たり前のように無視すると
「イヤ・ミーが相手なんてパパ
ったらあたしが可愛くないわ
けっっ?」
と吐き捨てるように言い、
“何かを思い立った”ように城の方に向かって走りだして行った―