* ふぞろい四重奏 *

□第三章 宿での出来事
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月が美しい夜だった―



シーサイドの町の外れにある森の中、小さな湖のほとりにただずむ一組の男女が湖面に映る月を見ながら愛を囁き合っている…

風にそよぐ草の音がなんとも耳に心地よい…そんな静かで穏やかな夜に―



―ここシーサイド城のとある一室では思わず身の竦むような怒号が響き渡っていた。



「ここにいるのは揃って役立た
 ずであるかーーーっっ!!」

「これだけの人数で姫さま一人
 見つけだせんとはっ、情けな
 いとは思わんかっっ!」


コ・ウテイ・ペ・ンギーはそう怒鳴りながらも、見合いを成立させるどころか姫さまに家出されてしまったというこの“大失態”をどう王様にお伝えすればよいのだと思い悩んでいた。


何だかんだ言っても、今回の見合いの件に関して『全てお任せを』と王に対して胸を叩いたのは他ならぬコ・ウテイ・ペ・ンギー自身なのだ。計画そのものの失敗に於いても、人選ミスに於いても責任は当然本人にある。その事実が余計にコ・ウテイ・ペ・ンギーを苛立たせ、家臣たちに“八つ当たり”しているのだということを本人はよく理解していた。が…


この夜のコ・ウテイ・ペ・ンギーはその“理不尽”をどうしても抑えられず、その後もくどくどと“説教”という名の八つ当たりをし続けたのである…


実のところ“援軍”がチユウカの町に到着した時、既にベルガは船上の人であったから、この結果は至極当然なのであった―






「え〜〜ぃっ、キースは一体ど
 こで何をしておるのだっ!?
 もしやと思い張らせていたア
 ルバ・ト・ロスにもベルガさま
 は姿を見せなんだし… 早く
 帰ってこんかっっ!」


家臣たちへの説教の文言も底を尽き、執務室へと戻ったコ・ウテイ・ペ・ンギーは、目の前にいない孫に向かってまでそう八つ当たりした。


大した用事を言い付けたわけではない、ただベルガを外に連れ出すまでの間遠ざけることが出来ればよかったのだ。


コ・ウテイ・ペ・ンギーは今回の計画を立てた時、ベルガの口からキースに“チユウカの町に行く”ことが漏れないよう最新の注意を払った。

もし漏れれば、従来ベルガの遠出には必ず随行するよう事前に言い付けられる自分が、今回に限って何も言われていないのは“オカシイ”とキースに気付かれるかもしれないと思ったからだ。

そうなれば最悪の結果“何かおかしい”とキースに聞かされたベルガにも“疑惑の念”が生まれまたもや計画がお流れに… なんて事にならないとも限らない。
だからこそ、見合いの前日まで王妃のバラ・エノにはベルガをチユウカの町に誘うのを待ってもらい、キースにはなんやかんやと用事を言い付けて遠ざけるようにしていたのだ。


( どうせいつものように女たち
 に言い寄られでもして、どこ
 ぞ遊び歩いておるのだろう… )

女の子たちにとり囲まれヘラヘラとするキースを想像し、コ・ウテイ・ペ・ンギーのイライラは頂点に達した。

キースに対してではない、自分の“判断ミス”に対してだ。
悔やんでも悔やみきれないミスであった。

( 素直にキースを共に付けてお
 れば…ここまでの事にはなら
 なかったであろうに… )

それどころか、王が“王となった後”のワンスを憂慮し今回の見合いの話を受けたという“事情”をきちんと説明した上でキースを行かせていれば、ベルガが拒否しても、二度も約束を反古にされる相手方の心中や体面を慮り、大人の判断をしてベルガを諌め見合いの席に着かせてくれたかもしれないと今更ながらにそう感じ、孫であるキースを信じるべきではなかったかと己を責めた…




結局―


“ベルガ家出”の報告を受けた王も

目の前で家出されたバラ・エノとワンスも

勿論“策に溺れた策士”コ・ウテイ・ペ・ンギーも



― 一睡も出来ず夜明けを迎えることになったのは言うまでもなかった…
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