* ふぞろい四重奏 *
□第一章 姫のお見合い
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そこは“戦場”だった―
と言っても本物の戦場ではない、
“厨房”である。
「おーい急げーっ、時間がない
ぞーっ、だからって決して手
は抜くなよーっ」
大声を張り上げているのは、長年この厨房を取り仕切っている料理長のオマールだ。
「今日は“ベルガ”嬢の大切な
日だからな、みんな気合い入
れろっ」
「「「オウッ!!」」」
『ベルガ』とは
このシーサイド城の主シ・ロナガス王の一人娘“ベルガ姫”のことである。
シロイルカのように真っ白な肌、ピンク色の髪にピンク色の瞳。
それはそれは愛らしい姫であった―
―のだがぁ・・・・
「姫さまっ!
早くこのドレスにお召しかえ
をっ…
姫さまっっ!!」
女の金切り声が最前からドアの外に響き渡り、警護に立つカ・レイとヒラ・メーは大きなドアの端と端で顔を見合わせうんざりしたように耳に指を突っ込んだ。
その“声の主”はベルガ姫の教育係ミズ.タツノオ・トシゴーである。
「姫さまっ!本日は大切なお客
様が見えられるのですっ、早
くしないと間に合いません!!
王様の顔に泥を塗るおつもり
ですかっっ??」
そうまくしたてる彼女の後ろで
ドレスや靴等を持った数人のメイド達は一様にヒヤヒヤした表情で立ち尽くしている。
「もぉ〜、うるっさぃなあ〜っ」
豪華なソファーにだらしなく寝転がり、お菓子をたべ〜の雑誌をよみ〜のしていた少女、ベルガはようようにして起き上がった。
「パパのお客でしょぉ?
何であたしまで?」
『『『――ギクッ!!』』』
心の動揺とともにベルガを除く面々に緊張の色が走る―
( ん?
なんかおかしい…? )
ベルガは勘の鋭い少女であった。
「…あっ! パパっ!!」
ピンクの瞳を大げさに見開きドアを指差しそう叫ぶと、
「王様っ!?」
ミズ.タツノオ・トシゴーが素っ頓狂な声を上げ、皆一斉に振り返った。
その隙にベルガは一目散にバルコニーに飛び出すと、慣れた様子で斜め下のバルコニーに飛び移り同じ要領で下へ下へと降りていく…
「「「姫さまっっ!!」」」
気付いた皆が悲鳴にも似た声を上げバルコニーから下を覗いたが追いかけられるはずもなく、
異変に気付いてカ・レイとヒラ・メーがバルコニーにやって来た頃には時既に遅し
『トレードマーク』の“ピンクのツインテール”を揺らして走り去るその小さな背中をただ呆然と見つめるしかなかった…
そう、このベルガ姫―
見かけの愛らしさとは裏腹に、
手が付けられない
―ワガママおてんば姫―
なのであった・・・