* ふぞろい四重奏 *
□第ニ章 姫の家出と二人の勝負
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一月後のある日、ベルガは船の上からどこまでも広がる青い海を見つめていて、不意に“あの話”を思い出した―
( そういえば、どうなったのか
な?あの話 )
ある漁師町で、海に出た男たちが次々と行方不明になっているという“あの話”だ。
― 得体の知れない何か ―
( ヤダッ、変な事思い出しちゃ
った…
さっきまであんなにきれいだ
と思ってたのに… )
目の前の大海原が突然恐ろしい存在に思えてくる。
( も〜っ、まだ着かないのぉー
ーーっ? )
痺れを切らして一旦船室に戻ろうかなと思った時、
「ベルガちゃん」
と背中から長閑な声がした。
「ママ、どうしたの?」
「そろそろですってよ」
「ホントッ!?」
そう言われて先を見ると、右手の方に小さくぽつぽつと家が見えはじめた。
「やっと着いたぁ〜」
ベルガたちの目指す港町チユウカでは、近頃ラ・メンとギョ・ウザという食べ物が大ブームで、王族会の間でも大変な話題となっていた。ベルガも一度行ってみたいと思っていたところに王妃のバラ・エノから
「アニンド・ウフッていうデザ
ートもす〜ごくおいしいんで
すってよ〜。おしのびでいっ
てみる〜?」
と誘われ、二つ返事で今日の運びとなったのだ。
なんといってもお忍びだ。バラ・エノとベルガだけでは心配だから、と付いてきた兄のワンスと軽装備の警護兵三人、計六人での気ままなおでかけ…
と、そう思っていたのは―
―ベルガ一人だけだった。