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□ひとつ先に進みたい
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部室には真田と赤也の2人しかいなかった。というより、まだ部活中のこの時間、本来部室は空になるのだが。
今は何故か真田に半ば強引に連れてこられた赤也と、無言のまま険しい表情で腕を組んでいる真田がいた。



「誰の仕業だ。仁王か」

「知りませんよ。俺こうなる時あんま記憶ないんで」


こうなった原因は、赤也の今の姿にあった。髪の色が白く脱色され、肌は赤褐色に焼けていた。名古屋聖徳戦でみせたあの悪魔の状態に何故か今なっていた。
悪魔の赤也は非常に危険なので、練習試合などでは悪魔化しないよう注意を払っていたはずなのだが。
もしも仁王のイタズラであるならば、仁王には後で罰を与えなければならない。


「とにかく、暫くここで頭を冷やせ。今のお前は危険だ」


悪魔が解除されるまで、部室からは出るなと真田の命令が下る。この状態の赤也がラケットとボールを握ればそれは凶器になる。悪魔の赤也をまともに相手出来るのは、おそらく三強くらいだろう。
部員たちや他の通行人などに被害が出ることは避けたいから真田は赤也を部室に連れてきたのだった。
赤也をここに置いて、真田はコートに戻ろうとした。


「待ってよ副部長。ほっとかれんの、寂しいっす。アンタが俺の事助けてくださいよ」


赤也の声は、親を求める子のように聞こえた。だがその一方で強気に駆け引きされているようにも聞こえ、二面性があった。
調子が良く分かりやすい性格だと思っていた赤也だが、悪魔になれば話は別だ。普段からよく接している真田も惑わされてしまう程だった。


「アンタと幸村部長と柳先輩…3人で企てたんだろ?俺の身体こんなにするって」


真田を見上げた赤也はくすりと笑う。何もかも見透かしたような緑と赤のその大きな目で。
赤也の言った事は全て紛れもなく本当の事だったから、赤也を身長で見下しているはずの真田だが、一瞬心理がぐらりと揺れた。こう言えば、真田の心に一番響くと、今の赤也には直感的にわかったのかもしれない。



「責任、とってくださいよ」


何かを誰かを傷付けて笑ってやりたくて仕方がない。
けれどラケットもボールも副部長に取られちゃったから、今日はそれは諦めてあげますよ。

だからその代わり、気持ち良くして欲しいんだ。痛くされても大丈夫だから。
乱暴にされたり無理矢理だったり強引とかでも、案外イケる気がするから。
痛め付けたい本能と虐められてもいい嗜好は案外紙一重で、どこかで繋がっているのかもしれない。

どんなカタチでも良いから、一番感じる所に触ってください。

抵抗はしない真田の首に、赤也の腕が絡まった。いただきます。まさに悪魔の食事の直前。そのとき、低くて芯に響くような声が耳元で聞こえて、赤也の動きが止まった。



「…お前の強さはそんなものか」

「っ…!?…いっ、て…!」


充分弱味につけ込んだから、真田は抵抗しないだろう。そんな赤也の思い込みは一気に打ち砕かれて、いつの間にか壁際に追い詰められたのは赤也だった。
両手首をしっかり握られて手が動かない。今の状態なら普段より力が出るはずなのに、それでも真田の力には敵わなかった。


「一時の欲望に身を委ねた先に何がある。お前の求めた強さは、そんな物に抗えない程弱かったのか?」


身体が凍りついたように動かなくなる。真田の気迫めいた瞳と、日々の鍛練で存在する圧倒的な力強さ。
言葉1つ1つに重みを感じて、身体機能がすべて停止してしまったみたいに身動きがとれなかった。
こんなに強くなったと思っていたのにやっぱり真田にはまだ到底敵わないのだと思い知る。


「それでもお前が一時的な快感を求めるならば、相手をしてやる。好きにしろ」


真田がそう言い捨てる頃には、掴まれていた手は離されていた。今なら真田を好きなように出来る。それは分かっていても、気迫と言葉の重みに押されて身体が動かない。
今こんな状態で身体だけ気持ち良くなっても、そんなものはきっと虚しいと、頭のなかで想像がついてしまった。そうなるように真田が諭してくれたから。



「…だが、」


先程までは自信に満ち溢れていた真田の表情が突然陰りを見せた。それは戸惑い、それとも後悔か、いずれにしても真田にはあまり似合わないものだった。


「お前の言う通り、お前を立海三連覇の為の道具にしようとした俺達がいるのも事実だ」

「…別に…恨んじゃいませんよ。強くなれたのは事実ですし」


真田の言った事は薄々感づいてはいたし、それでも良いと思っていた。
けれど実際に真田に事実を打ち明けられて傷ついた心があるのも確かで。まだ、この心は紛れもなく人間なのだと赤也は感じる。


「だから、お前がまたこうして自分を抑えられなくなったら、俺の所に来い。お前が道を間違えないように、殴ってでも止めてやる」


何でもかんでも鉄拳制裁で解決しようとして、真田だって人の事言えないくらい暴力的だと赤也は思う。
偉そうで、少しムカつく。でも、そんな厳しい言葉に何故か安心してしまっているんだ。
だって、副部長なら俺が幾らおかしくなっても絶対何とかしてくれる。そんな気がするから。


「…すまなかったな、赤也」

「っ、べ、別に怒ってないっすから…、てかっ」


真田の手が赤也の後頭部に回って、そのまま軽く引き寄せられれば真田の胸に身体を預ける感じになってしまった。
自分じゃない人の匂いに包まれて、落ち着かないけれど、大きな身長にくるまれてるのは心地が良い。ただ、どきどきと心臓がうるさくて真田にバレてしまわないかとひやひやする。
もっとこうしていたいけれど離れて欲しくて、心のなかが矛盾する。


「あの、副部長…練習戻らないんすか…?」

「む…側に居ろと言ったのはお前ではないか」


真田に抱き締められたまま静寂な時間が過ぎていく。この不思議な状態に耐えきれなくなって赤也が問いかければ真田からは真面目で律儀な解答が返ってきた。


「確かに言いましたけど…〜っ!もう良いんす!練習戻ってください!」

「おかしな奴だな」


名残惜しいと心の中で思いつつも、赤也は真田の胸から離れて、真田を部室から出るように促した。
手で押しても自分より大きくてがっしりとした身体はなかなか前に進まなかったが。
言っている事が先程と違うと真田は理由をずっと気にしたまま、部室を出ていった。





「…もう…何で、副部長のくせに…っ、かっこいい…」


1人きりで静かになった部室には、今だ悪魔化したままの赤也がいた。
そのメカニズムは未だよく分かっていないが、もし悪魔化が感情が高ぶった時になるものならば、真田がいたら、戻れるものも戻らない。

怒ってばかりで厳しいから、時々頭に来たりもするけど、すごく強くて逆らえない。憧れてるけど、苦手な人だ。
そんな認識だったのに、俺の事一番心配してくれていたのは、もしかしたら副部長なのかもしれない。

突然そんな素振り見せられたら、見る目が180度変わっちゃうよ。
でも副部長の事だからそんな事にも気づかないで、またいつも通り俺に厳しくしてくるんだろうな。


今までは部活以外で副部長に会うなんて絶対イヤだって思ってたけど…

もっと一緒に居たいって言ったら、いいって言ってくれますか?




END

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OVA見返したり、劇場版見てたら真田がかっこよくてしょうがなかったので。ただ真田書くのホント難しい…でも好きなんだ真っ赤!!
 

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