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□僕は天使に恋をした
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「アンタ本当最低!もう知りませんから!」


あたるようにドアを勢い良く叩きつけて赤也が家を飛び出した。シンと静まり返った室内に取り残された柳は、もう開く事のないであろうドアから目を離せずにいた。
こんな事になってしまったのは、本当に些細な一言がきっかけだった。




―――――――


「もし2人で住むなら、やっぱ東京の方が都会で良いっすかね?柳先輩はどう思います?」

家に遊びに来た赤也がふとこんな事を口にした。今はこうして一人暮らしの柳のマンションに遊びに来るだけで満足だけれど、いつかは2人で家を買いたいと、遠い未来の話に瞳を輝かせていた。

赤也は、本当にずっと俺と一緒に居るつもりなのだろうか。
外見も嗜好も服装も習慣も何もかもが違う俺達が惹かれ合った理由さえまだ謎のまま。
赤也の周りにはたくさんの人間がいて、その中にもっと話の合う人間だっているだろう。

だから信じられないんだ。この先もずっと赤也が俺を好きでいるなんて。
ただ一時の感情が高ぶっているだけ、きっと俺もすぐに過去の物にされてしまうんだろう?


「…やめてくれ…そんな話はしたくない」

「柳先輩…どうしたんすか?」


きっと柳も自分と同じように考えてくれると疑わなかった赤也は、柳の思わぬ返事に綻んでいた表情が強張った。空調がきちんと効いた部屋なのに、何故か冷たくて重苦しい。


「どうせ、お前もいつか離れていくんだろ。だったらそんな話はしない方が良い」

「何すかそれ…先輩、俺の事が信じられないの?」

「お前の周りにはたくさんの人間がいるだろう…一体どうやって信じろって言うんだ」


何もかもが真逆な俺達なのに、男同士と言う点だけは同じで。同じではいけない所が同じだった。
男女でさえ添い遂げる事が難しいこんな世界で、男同士の自分達がずっと一緒にいられる訳ないだろう。

だったら道具のような恋人の方が良い。
適当に時を共にして、抱き合って体を繋げて、それで終わり。一瞬だけの温もりで充分だから。



そう伝えた所、赤也が激怒して柳のマンションを飛び出していってしまった。と言うわけだった。



「(これで、良い。自分で突き放したのだから。自分が尽くしたのに離れていくよりよっぽどマシだ)」


いくら自分が愛して尽くしても、離れていくのが運命なら。
傷付くのは嫌だからと、いつも隣で笑ってくれる最愛の後輩を傷付けて自分を守る。
自分がされて嫌な事なのに、赤也にはするんだ。
本当に最低だとつくづく思う。


けれどこんな風に自分で理屈ばかりをならべて自己防衛しても、結局赤也の事ばかり考えていた。

隣に居て欲しくて笑って欲しくて、好きで愛していてどうしようもない。
赤也にフラれるよりは傷が浅いだろうと高をくくったが、こんなに頭の中に赤也が残っていては何の意味もなかった。


外に出ることも、食事をすることもままならなくて、最早自分の生きてる価値すら見失いそうだった。






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