少年陰陽師2

□第五十一部
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「譲刃を連れて来い、ですか?」

 口に含んでいた米を胃に落とした昌浩が
向かいに座って同じ朝餉を食している晴明に
言われたことを鸚鵡返しに言った

「向こうの都合がつけばの話じゃ、無理にとは言わん」

 はぁ、となんとも気抜けした答えを口にする昌浩に一つ頷いた晴明が羹のお椀を手に取る
何か用事でもできたのだろうかと思いつつ箸を口元に運び
主食をもそもそと咀嚼する昌浩の横に顕現する長身の影がある
誰だろうと視線を上げたそこにいたのは
無言のまま自分のほうを見降ろしてくる六合であった

どうかしたかと尋ねようとした昌浩だったが
六号の視線の中に訴えるものがあることに気付いたのか
自然体である眉間に微かな皺が寄る
僅かばかり細まった瞳が何かを読み取ったらしい
しまったという顔をした昌浩が慌てて箸を動かす速度を上げる

「ご馳走様でした!」

 残っていた食べ物を大急ぎで平らげた昌浩が慌しく駆けていく
遠ざかっても尚響いてくる足音は喧しいが
最近はこれがすっかり朝の日常風景となってしまっている
注意したところで聞き入れる余裕が無いことを知っている晴明だ
今更何をか言わんや

「行ってきまーす!」

 無駄に大きな声が飛び出していくのに
負けず劣らず大きな甲高い声が口論を繰り広げながら続いていく
その二つの声に慌てて行ってらっしゃいと応えたのは彰子姫であろうか

「全く、あの子ったら」

 元気が有り余っている息子を見送った露樹が
仕方ないなとばかりの微笑をたたえながら
何一つ残すことなく綺麗に平らげられた食器を下げにやってきた
あんなに急いでよく喉に詰まらせなかったのもだと呆れるのか感心するのか
やれやれと肩を竦めた露樹は
まだ食事中の晴明にゆっくり召し上がってくださいねと言い置いて厨へと向かっていく


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