少年陰陽師2

□第五十一部
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 向けられた気遣いにありがとうと返した晴明は
その背が死角に吸い込まれていくか否かとなったところで
すっと面から柔和さを取り払う

昨日、昌浩がいつものように夜警に出た後
青ざめた顔の天一と意識の無い彰子を抱えた朱雀が部屋に飛び込んできた
話を聞くに、何の前触れも無く崩れ落ちたらしい
倒れてから何度呼びかけても返答は無く
これは自分達の手に負えないと判断した二人は
すぐさま晴明のもとへと彰子を運んできたのだった

状態を確認しようと彰子の額に手を翳した晴明は
即座に彰子の魂が夢殿にあることを明かした
身体のどこにも悪い影響は見当たらない
ただ眠りに落ちているだけなのだと
悪いことが無いと聞いて幾分か気の和らいだ天一の隣で
では何故姫は急に眠り込んだのかと朱雀が声を上げる

それは、と言葉を発しようとした晴明を遮るかのように
三人の耳に何か乾いたものがひび割れる音が届く
何が起こったのかと息を詰めた三人の前で
朱雀の腕に抱かれたままの彰子がふと瞼を震わせた
のろのろと明瞭さを増していく視界の中に
自分を心配する三つの顔を認識した途端
彰子は焦ったように譲刃という名を口にしたのだ

(夢にいたのが、まさかの譲刃殿だったとは)

 彰子が七日間に渡ってどのような夢を視ていたかは話に聞いているが
何故そこに晴霞の存在があったのか晴明は知らない
だがそれも、本人に話を聞けばおのずとわかってくることだろう

(あの状態からどの程度戻ったかも気に掛かるからな)

 彰子が夢を見始めた日
あの七日前の姿を今でも鮮明に憶えている晴明は
思案するようにゆっくりと瞼を降ろした


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